2011年5月23日月曜日

「櫂」

櫂というのは、船を漕ぐときの道具なのだけれど、それをタイトルにした宮尾登美子の「櫂」。

どうしてそのタイトルにしたのかは不明だが、主人公の女性が、水に流されまいとして必死に漕いでいる姿を象徴したかったのだろうか?


この「櫂」は10年ほど前に読んだことはあるのだけれど、すっかり内容は忘れてしまっていた。
覚えているのは、最初のシーンに四国の高知では初夏ごろに「楊梅」(やまもも)という果物を食べる習慣があるということと、旦那さんの名前が「岩伍」であるということ、そして娘の名前が「綾子」だということくらいしか記憶に残っていなくて、いかにいい加減に読んでいたかが分かってしまう。

この小説の舞台は明治から大正、そして昭和へと続く高知。

主人公は素人の家の出であったのに、若くして結婚した相手の夫が芸妓紹介業となり、多くの男女の使用人に囲まれながら賑やかに暮らしていた。
それが病弱な長男の世話、遊び人になってしまった次男の世話に追われていた頃、夫が娘義太夫といい仲になり、子どもができてしまった。その赤ん坊を引き取って育てていくことによってだんだんと彼女の世界が変わってくる。

女の売買を生業とする夫とは次第に距離を置くようになり、いろいろなトラブルが起こり、使用人もだんだん減らされてしまい、最後には家を追い出されて、貧困生活をするようになってしまう。ラストでは可愛いがっていた義理の娘ももぎ取られるようにして、主人公が一人になってしまうところは本当に切ない。


そんな女性の話だが、この義理の娘である綾子は作者・宮尾登美子の分身ともいえる。

この「櫂」はその後、主人公を変えながら「朱夏」「春燈」「岩伍覚書」「仁淀川」の4部作と繋がっていく。
とくに「朱夏」では結婚した綾子が満州に行き、戦後、ボロボロになって引き上げてくる様子が描かれている。

この本ではもう今から80年ほど昔のいろいろな習慣や言い伝えなども丁寧に描かれていて、昔の人はこうやって生活してきたのだ、ということがよく分かる。また方言も美しく、心に沁みるシーンも数多くある。

かなり長い小説だし、読みにくいところもあるので、誰にでもお勧めするような本ではないのだけれど、私はやはり女性作家の書いた本が好きなんだなと思う。

「耐えて耐えて、それが結婚」という台詞があったけれど、当時からすると今の女性は強くなったのでしょうかね。

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