2013年6月7日金曜日

「夜鳴きめし屋」

宇江佐真理さんの本はほとんど読み尽くしていていましたが、図書館で新しい単行本を見つけました。

「夜鳴きめし屋」です。
 これは小説宝石に掲載されたシリーズものです。

主人公は本所の五間堀で「鳳来堂」という居酒見世(みせ)の主、長五郎。
年は28歳くらいかしら。
お店は夕方から明け方まで開けているので、いろんな人たちがやってきます。

「夜鳴き蕎麦」にかけて「夜鳴きめし屋」と名付けています。

彼のお店に来るのは常連の左官屋さんや鳶職、亡き父の友人、有名な料亭の旦那、ちょっと訳ありの武士、顔なじみの芸者、夜をひさいでいる夜鷹などなど。
彼らが織りなす人間模様のあれこれのお話です。

そして一番の重要人物は、長五郎が若いときに芸者のみさ吉に産ませた惣助という男の子。
この子は長五郎が自分のてて親だとは知らないのだけれど、なんとなく彼になついているのです。

そして最後には長五郎とみさ吉とこの惣助は一緒に暮らせるようになるのだけれど、その間にすったもんだがあり、そのたびにホロリとさせられるのです。


ストーリーとは離れているのですが、面白いと思ったところは、舞台の五間堀というのが、本所であるのか、あるいは深川であるのかで、登場人物たちが議論をするところです。

このあたりのことを良く知らない人にとっては、どちらも下町の江東区ということで括ってしまうのでしょうが、彼らにとっては大問題なのです。

私の亡くなった祖母がやはりこの辺りの生まれの人間だったのですが、
「おばあちゃんは深川の生まれでしょ」と尋ねると、キッとした顔になり、「いや、私は高橋(たかばし)だよ」と訂正していました。
本所、深川、高橋には厳然とした区別があるのでしょうね。

そういう微妙なニュアンスを、北海道で暮らしている宇江佐さんがきっちりと書いているのも、すごいことですね。


この本は職人と芸者さんという、「髪結い伊三次捕物余話」とも似た組み立てになっていますが、庶民の姿をきっちりと描いています。

そして長五郎の拵える手際のいい料理のおいしそうなこと。

実際の江戸時代に生きていたら、今よりも不便な暮らしだし、きれいごとではすまないでしょうが、でもしんみりとさせられます。

「宇江佐」ワールド全開の時代小説です。





2 件のコメント:

ずんこ さんのコメント...

髪結い伊三次シリーズを中心に読みましたが、この本は読んでいません。おもしろそうですね。
いつも思うのですが、時代や土地の背景まできちんと書くのは大変なのでしょうね。幅広い知識が必要なのだなと感心してしまいます。

おおしまとしこ さんのコメント...

ずんこさん、伊三次シリーズをお読みになったのね。あのシリーズはかなり長くて、今ではそれぞれの子どもたちの話になっていますね。

私は話し言葉が好きなの。「おかたじけ」とか「いっちいい」とか。元気が湧いてきますよね。