2015年7月18日土曜日

「花鳥の夢」

最近読んだ本のご紹介ですが、これはおススメします。
一気に読めて、著者の意気込みが感じられました。

でもその方、もうお亡くなりになってしまったのです。
本当に残念です。


山本兼一さんの「花鳥の夢」。
この美しい装幀を見ただけで、「絶対にすぐにでも読んでみたい」と思いませんか?

そう、これは安土桃山時代に生きた天才画家・狩野永徳のお話です。

永徳については、市民カレッジで「日本絵画名品比べ 永徳VS等伯」というセミナー▼という講義を受けたとき、彼の人生は一通り学びましたが、この本では永徳の等伯に対する敵対心と嫉妬心を表面に押し出して、その心の内が強く描かれています。

たとえば、彼が若い頃にドキッと心を惹かれた絵は、実は等伯の奥さんの描いた絵だったことが分かった時から、「こんなうまい絵を描く女を妻にしている男はどんな奴だ」と思うことから始まります。

えー、等伯の奥さんって絵師だったんだっけ? という突っ込みは置いておきますが、ストーリーとしては面白かったですね。
狩野家の後継ぎであるサラブレッド・永徳が、地方出身の無名の絵師・等伯に対する敵がい心と、嫉妬が見事に描かれていました。

この小説を読んでいると、作者の山本さんが永徳に乗り移って、「洛中洛外図」を初めとする多くの絵を本当に描いているかのように思えてきます。

小説を描くときの筆の力(パソコンで書いたのかもしれませんが)は、絵を描くときの筆の力よりも優れているのではないか、と思ってしまいました。絵画を描くときの絵師の心境がここまで見えてきて、それを文字に表したなんて、山本さんという人は本当にすごい力のある人だと思いました。

また永徳の周囲の人間として、信長、秀吉、利休など第一級の人物も登場するので、歴史小説としても醍醐味があります。彼らも絵に対する評価をきちん評価していたのですね。
もし、安土城や聚楽第が今でも現存していたら、永徳の多くの襖絵なども見られたのにと思うと、とても残念ですね。

永徳は全力を出し切って多くの絵を生み出しましたが、48歳という若さで亡くなってしまいます。
今の言葉でいえば、過労死だったのでしょう。

彼が最後に見た夢はどんな夢だったのでしょうね。

かなり分厚い本ですが、一気に読みました。傑作でした。
ただし、あまりに改行が多いのがちょっと気になりましたが。

安部龍太郎の「等伯」▼を先に読んでしまいましたが、能登のさびれた海岸のイメージを持つ等伯と、京都の華やかなイメージを持つ永徳、あなたはどちらがお好みでしょうか?




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