2017年8月3日木曜日

「吉村昭の平家物語」

昨日のブログ▼は源氏物語でしたが、今日は平家物語です。

私は平家物語そのものはきちんと通して読んだことがなくて、吉屋信子の「女人平家」とか、永井路子の「平家物語の女性たち」など、主に女性作家の書いたものをちょっとずつ読んだだけしかありません。

それでも昔人間のせいか、富士川の話とか、宇治川の先陣争いの話とか、那須与一の話とか、あれこれ断片的には親しんでいました。
そういう知識はどこから得たのでしょうね。親などが、話して教えてくれたのでしょうか?
この際、ちゃんと通して読んでみたいと思いました。

それでコンパクトにまとまっていて、読みやすいものはないかと思っていましたが、「吉村昭の平家物語」はちょっと分厚い程度の文庫本1冊になっているので、手に取ってみました。


解説によると、平家物語を現代訳にすると原稿用紙3000ページくらいの量になるそうですが、それを編集部の依頼で700ページほどにしたそうです。平易な文章でうまく短くまとめてあります。
というのも、この本は、もともとは少年少女向きに書かれたものだそうです。
しかしその割には大人でも難しいな、と思うところもありました。

最初の有名な「祇園精舎の鐘の音・・・」から始まり、平家の栄華、横暴な政治、福原遷都、頼朝の登場、木曽義仲、義経や範頼の各地での戦いぶり、西国に落ちていく平家、壇ノ浦の決戦、最後は寂光院での建礼門院の話、と内容は盛りだくさんでした。
知っている場面のところは、とても面白く読みました。

ただし、やたらに戦闘場面が多くて、ちょっとうんざりもしましたが、まぁ仕方ないですね。
あの頃の戦いというのは、お互いに馬に乗り、まずは名前を名乗り、刀や槍を使って、最終的には相手の首をちょん切るというのが、勝ちのパターンでした。
ミサイル一発でこの世が終わってしまうかもしれない今の世の中で、なんとも悠長な戦いぶりです。
兵力が2万人などと書かれていた場面もありましたが、いくら近辺の農民などを動員しても、そんなに兵隊がいたのでしょうかね。

そして分かりにくいのが、平家も源氏も血族がとても多くて、似たような名前の人がたくさんいるので、誰が誰だか分かりにくいことです。

それでも栄誉を誇った平家の人たちが、西国の海を漂い、最後には海の中に消えていく場面は涙を誘いますね。
「望月の欠けたることなし」と言われた藤原一族もやがては滅びていきましたし、徳川家も同じです。
平家を倒した源氏にしても、たった3代で終わってしまったくらいです。
どんなに栄華を極めても、最終的には滅びていき、他の権力にとって代わられるのですね。盛者必衰ということでしょうか。

平家物語というのは、もともとは文字に書かれた文学ではなく、琵琶法師が歌っていた伝承物なので、きっと元のものはもっと悲壮感に溢れていたのだろうと思いました。

ちなみに、これも解説に書いてありましたが、著者の吉村さんという方は、もともとは歴史資料をきっちりと読み込んで、そして創作活動をされていた人なので、元本がある「平家物語」を訳す作業は、なんだか盗作をしているようで、二度と現代語訳はしたくない、とおっしゃったそうです。
作家魂が感じられますね。

逆に、このような内容のものから、それぞれの話をうまく抽出して、別の小説に仕立て上げる作家の力というものも、素晴らしいものだと思いました。

源氏物語と平家物語、内容も書き方もまるで違いますが、やはり日本文化の誇りだと思います。




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