2019年12月19日木曜日

第五回「今藤政太郎作品演奏会」個人的雑感

初めにちょっとお断りしておきますが、私は西洋音楽についても、また邦楽全般についても疎い人間です。
たまたま家にあった三味線を見つけて、現在は今藤一門の先生について、長唄三味線のお稽古に通っているだけのものです。
ですから、今回のブログは、ごくごく素人の、個人的な雑感です。
音楽の専門家、三味線のプロの方とはまるで違う立場での感想ですので、内容がずれていましても、どうぞご容赦下さい。

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昨日、「今藤政太郎作品演奏会」に出かけてきました。
会場は半蔵門にある国立劇場小ホールでした。


開演前の美しい緞帳です。


初めに今藤政太郎先生と、司会進行役の織田紘二さんの会話がありました。


最初の曲「蛍」は、舞踊曲をアレンジしたものだそうですが、この「蛍」の原作者である竹田真砂子先生が登場されたので驚きました。

というのは、今回は全席自由席でしたので、私はできるだけ前の方に座ろうと思ってウロウロしていたとき、前方にとても素敵な年配の女性が座っていらっしゃり、ちょっと気になっていたのですが、その方が竹田先生だったのです。
美しいショートのグレイヘアで、ほっそりとしたお体を黒っぽいプリーツの服で包み、すらりと立った姿は、ほんとうに素敵でした。
「蛍を見つけるために、全国のあちこちを廻った。湯河原の蛍はとてもきれいだった」というようなお話をさらりとされて、自慢げなところも一つもなく、これから始まる演奏をとても楽しみにされているようなご様子でした。

曲の内容は、若い防人が、愛する妻や子供を残して出かけて、蛍になって戻ってくる、というような内容だと思います。
まず最初に小学生くらいのの10人ほどの子供たちが舞台に立ち、美しい声でわらべうたを歌ったのがとても印象的でした。
そしてまた三味線とともに、胡弓の演奏が入り(清元の方が演奏していました)、その何ともいえない哀愁帯びた音色が素敵でした。
27分間の演奏でした。

休憩の後は「室咲(むろさき)京人形」という江戸時代の曲を復曲したものでした。
ここでは演奏の前に、3人の女性が登場されて挨拶されました。
3人の方は、音楽大学の研究者や事務局の方で、この曲の正本を手に入れるまでのエピソードを語られました。
というのも、この曲は5部構成なのですが、なんとその一部分の正本が、フランスの国立図書館に所蔵されていたというのです。
そしてその史料は、たまたまフランスに留学中の修士の若い女性が写真に撮ることに成功したというのです。
そしてその史料の綴じ目をほどいてみたところ、当時の演奏者の氏名も判明したということでした。
そこに至るまでのお話をされていましたが、江戸時代の寛延元年(1748年)に書かれたと思われる史料が、何故、フランスに渡ったのでしょうね。
不思議なお話でした。
私は演奏中もずっとそのことが気になり、歴史の意外さを味わっていました。

後で調べてみると、寛延という年は徳川家重が将軍の時代で、元年には、人形浄瑠璃「仮名手本忠臣蔵」が初演されたそうです。

先ほども書いた通り、この曲は5部(「丹前」「槍踊」「道行」「笠の段」「猩々」)に分かれていましたが、一つのパートが終わると、演奏者は座ったまま、回り舞台でぐるりと変わるという、演出も良かったと思いました。
全体を通して45分もある長い曲でしたが、その間、まるで眠気も感じずにじっと聞いていました。

今の時代では、私たちは三味線を習うというときには、楽譜のテキストがあり、音声は録音できるし、またインターネット上でも何回でも読んだり聞いたりすることができます。
ところが江戸時代には、紙媒体の資料はあっても、音声は残されていません。
師匠から弟子に口伝で伝わっていったのでしょうね。
それを復曲するというのは、どれほど大変な作業かと思いました。

そして最後は「六斎念仏意想曲」でした。
政太郎先生が22歳の頃に作曲されたという処女曲です。
かつてお若い時に京都に住んでいたとことから、この曲が生まれたそうです。
これをまた聞きたくて、この演奏会に行ったのです。
竹田先生の言葉によれば「ショッキングな長唄」というものです。

松本幸四郎さん、尾上菊之丞さん、尾上紫さん、今藤政子さんの太鼓と、20名以上の三味線は、超高速演奏で、すごいすごい。
演奏者のみなさんの、「どっこい」という掛け声が、力強くて、かっこよかったです。
私は幸四郎さんの姿がきっちりと見えるところに座っていましたが、歌舞伎とは違った魅力がありました。
演奏直後に「高麗屋!」という掛け声が飛びましたが、あれはどうだったのかしらね。

そしてこれはファンサービスかもしれませんが、最後の部分をもう一度おまけで演奏していただき、その時は客も一緒に手拍子を叩きました。
これは嬉しいおまけでした。

3曲聴いて、三味線音楽の可能性の広がりを感じました。
三味線の曲としては、よく知られている「松の緑」や「花見踊」がありますが、そういう伝統的な三味線音楽とは別に、新しい三味線音楽があるのだと思いました。

これは三味線演奏会ではなくて、新しいジャンルのコンサートだと思いました。
政太郎先生は「まだまだ挑戦していきたい」と話されていましたが、すごいですね。


堪能させていただきました。
私の三味線の先生も、かっこよく演奏されていました。

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この日の装い。

いつもは安い着物を気楽に楽しんでいる私ですが、この日ばかりはちゃんとお誂えの着物と帯で出かけました。
ただし、着物姿の方は、それほど多くはいらっしゃらなかったように見受けました。


玉村咏先生の「白玉着物」と呼ばれる着物で、袖と裾に美しい白い模様が描かれています。
反物の質が良いのだと思いますが、どっしりとしていて、それでいて流れるような布地でした。

帯は金銀が織り込まれていて、マイサイズに仕立てていただいたので、締めやすくなっています。
これも作家さんのものですが、ちょっとお名前は失念しました。


たまにはこういう着物も着ますが、汚してはマズいと思うと、緊張しますね。
それにしても師走とは思えないほど暖かい日で、帰りも薄手の道行で暑いくらいでした。


2 件のコメント:

あるばとろす さんのコメント...

一般的な三味線の演奏会とはずいぶんかけ離れた、こんな自由な演奏会があるのですね。邦楽にも新しい風が吹いているのでしょうか。
このお着物、さぞかし美しい布でしょう。きりっとしていてかっこいいです。

おおしまとしこ さんのコメント...

あるばとろすさん、コメントありがとうございます。
三味線と言っても、奥も幅も広いものですね。
私は普通の演奏会だと、知らない曲は眠ってしまうのですが、
この演奏会では、聞き耳を立ててしっかりと聞いています(笑)。

こちらの着物は、前の仕事を辞めた記念に、自分で勝手に退職祝いとして
購入しました。私の宝物です。