2007年12月10日月曜日
凍りついた香り
こちらの写真は先週、バリ島に行った人からもらったお土産。「ワイルドローズ」「ジャスミン」「ウッディ」という3種類の香水のセットです。
ということで、香水つながりで、今日のブログのお題は、「凍りついた香り」。
そう、小川洋子さんの小説です。
この小説のキーワードは「記憶」かな。
簡単にストーリーをはしょって話すと、かつての恋人の過去を、ヒロインが旅を通して探し出すというお話。
ほんのちょっとしたエピソードから彼の過去の記憶を辿って、そして構成していくという物語です。
子どもの頃はアイススケートがものすごく上手で、スケートリンクでは花形だった彼、そして数学に天才的な才能を持っていた彼。
大人になってからはどういう経路を辿ったかは不明だけど、優秀な調香師となった彼。
そんな男性の過去などつゆ知らず、付き合いだしてちょうど1年目のヒロイン。
でも、どういうわけか、ある日、突然に彼は自殺してしまうの。
そんな彼の過去を知りたくて、かつて彼が国際数学協会(名前は不明確)に出場したチェコのプラハまで足を伸ばして、彼の過去を探るヒロイン。
彼女はプラハだけではなく、彼の生まれ故郷であるある瀬戸内海に面する小さな地方都市にも出かけるのだけど、そこで奇妙な母親と、彼によく似た弟に出会うの。
この本をばらしてしまえばそんな内容なのだけど、そこは小川洋子ワールド。
時間があちこちに流れ、交差して、そして次第に表面化される彼の過去。
うーん、素敵な世界よ。
何せ、舞台が中世の香り高いプラハですもの。それだけでわくわくしてしまうわ。
多分、この彼は、間違ってもメタボ症候群じゃないはずよ。鼻の形がすごくかっこいいんですって。そして、多分、指もすんなりとしていて、引き締まった体躯の持ち主だと思うわ。
小川さんは「博士の愛した数式」で、一気に有名になってしまったけれど、もちろんずっと前から素敵な小説をたくさん書いていた。「妊娠カレンダー」をはじめ、ちょっと病的なミステリアスな雰囲気がすごく漂っているの。
「凍りついた香り」を読んでいて、俗的な私なんか、ヒロインがその弟と恋愛関係に発展するんじゃないのかしら、なんて思いながらページをくっていたけれど、それははずれでした。
それにしても、こんな素敵な男性は絶対にいないな、と断言してしまいたくなるほど、その彼は素敵なの。
香りの天才でもあるし、数学的天才で何でも数字で考えてしまうし、それに加えてスケートもできる人なんて、普通はこの世にはいないわよね。
ところが、小川さんにかかると、あたかもその彼が目の前に立っているように感じられるの。
こんな男性から、その彼が自分で調合したという香水を、耳の後ろにそっと着けられたら、それだけでぼーっとしてしまいそう。きっとクラクラで、メロメロよ。
小説の後半では、プラハで、よく分からない人物が登場するの。占い師なんだか分からないけれど、孔雀の番人をしているらしいの。孔雀というのは記憶と関係の深い動物なんですって。
たまたま、おとといの脳科学シンポジウムで、ある教授がひとつの画像として孔雀の羽を広げた写真を見せていただいたばかりだったので、不思議なつながりを感じました。
神秘的な世界をのぞいてみたい人にも、恋愛中の人も、失恋したばかりの人にも、「凍りついた香水」はお奨めよ。読んでいると音楽が聞こえてくるのよ。バロックなのかしら。そーっと聞こえてくるの。
こういう薫り高い小説は、絶対に映画化して欲しくないな。私の夢が消えてしまいそうですもの。
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