2008年3月21日金曜日
六ヒルセミナー
私って生まれは港区高輪、その後はずっと杉並区育ち。
大人になって数年間は海外に住んだけれど、でも日本では東京以外のところでは住んだことがないの。だから自分では東京人だと思っている。
でも、東京人といっても、青山とか麻布とかいうお洒落な街にはめったに用事がなくて、いつもは○○市内をうろちょろしている毎日なのよ。
そんな私でも、たまには都心に出かけたい気分になることがあるの。
そんなとき、あの六本木ヒルズでサイエンスセミナーがあるという情報をキャッチ。
どんなセミナーなのかよく調べもせずに、六ヒルで開催されるということだけを頼りに申し込んでしまいました。
そして今日がその日だったのだけど、焦りましたよ。
セミナーのタイトルは
「私のことを知りたい ~自己と非自己の境界線~」。
うーん、難しそう。
講師は免疫学のオーソリティの谷口克先生という先生。
そして何より、このセミナーの売りは、あの芥川賞作家の平野啓一郎さんが、講師と対談をするというところ。
平野さんと言えば、「日蝕」を途中までは読んだのだけど、あまりの難解さにすぐに投げ出してしまったわ。
だって中世のフランスのお坊さんのお話でしょ。なんだかさっぱり分かりませんでした。
そんな純文学作家と免疫学者が語る「自己と非自己の間」・・・。
うーん、なんだか哲学的な展開になりそうな予感。
私など、免疫と聞いたら、「オトコに対して免疫がない」とか、「失恋してオトコに免疫ができた」なんて単純な言葉しか思い出さないんだけどね。
さぁて、お仕事を終えて大江戸線で六本木まで出かけたんだけど、この地下鉄はすごく深いところにあるのよ。日比谷線のほうがよかったな。
エレベーターを横目に地上まで階段を登ったけれど、疲れること!
六ヒルに来たのはまだ3回目くらいかしら。東京タワーが目の前に見えます。
セミナーの会場はアカデミーヒルズというところでした。
名前からしてかっこいいじゃない?
よく雑誌などで見かける会員制のライブラリーが入っているみたいよ。
そこの49階まで昇りました。目の下には都会の灯りがちらちらしていてとれもきれい。
おまけに会場はコーヒーや紅茶が用意してあり、優雅なサロンという雰囲気。
登場した谷口先生は、おだやかな語り口で、免疫の歴史からお話してくださいました。
そうね、十字軍のときにペストが流行したのだけれど、一度感染した人は二度とかからなかったという話から始まり、ジェンナーが天然痘のワクチンを発見した話、北里柴三郎が研究した破傷風菌やジフテリア菌の話、利根川進先生の遺伝子と免疫の関連の話・・・・。
あまりこういったお話は聞いたことがなかったので、結構わくわくしながら聞いていました。
簡単にいうと、免疫というのは、「二度かからない」ということみたいね。
こういう世界って、割と日本人が活躍していたみたいでした。
谷口先生のお話で意外だなと思ったのは、免疫というのは、親から受け継ぐ青写真がないんですって。
ふつう、DNAというのは青写真にしたがって正確にコピーされるのだけど、免疫というのはそうではないんですって。
そして免疫が作られるのは、身体の中の胸腺という場所なんですって。
胸腺というのは首のところにある甲状腺の少し下にあるそうです。
そして骨の中にあるリンパ球というものが、その胸腺というところで、分化されるそうです。
胸腺というのは、子供のときは結構大きいそうだけど、ハタチくらになるとだんだん小さくなって、脂肪になってしまうそうよ。
今まで、胸腺という言葉は聞いたことはあったけれど、そんなに大切な臓器だとは知らなかったわ。
胃や腸の働きのことは理科の時間で習っても、胸腺のことなんて、教えてもらわなかったものね。
私が知っていた胸腺は、料理の単語で、子牛のリードボーというフランス料理のことくらい。
ちなみに、胸腺がある動物というのは、「あご」のある生き物にしかないんですって。
だから、カエルとか小鳥には胸腺はないわけね。
ちょっとはお利口になったかしら?
さて、その免疫なのだけど、それが年齢とともに、本来は細菌とかウィルスなどに対して、異物を排除するための抗体とはならずに、自分自身を攻撃してしまうものもあるんですって。
この辺りから話は哲学的になるのだけれど、免疫は身体の中でウィルスや細菌から身を守るというだけではなく、自己と非自己を認識して、非自己を排除するするとシステムである、というのが本当なのだそうです。結果的に感染から身を守るようになっているそうよ。
こういうことから、自己とは何か、という話に繋がるわけ。
なかなか、ついていけない内容ですね。
谷口先生が免疫のお話をされた後は、大阪大学の中村征樹准教授がナビゲーター役で、平野さんとのディスカッション。
このナビゲーターは哲学が専門だそうで、さすがに言葉選びも慎重でした。
平野さんはちっと見には、普通のそこらへんのお兄ちゃんのような容貌なんだけど、やはり頭が良いわね。
話の展開もうまいし、おもしろいわ。
純文学の作家なら、免疫学のことなどあまりご存じなかったのだろうと思うけれど、結構的確に捉えていたようでした。
対談の中で面白かったのは、花粉症に悩まされている平野さんの言葉がきっかけで、「免疫とアレルギー」という話題が出たところ。花粉アレルギーなども免疫の正常な反応から起こっていることなんですって。
そして谷口先生もお話していたけれど、現代人はきれい好きすぎる環境にいあるから、アレルギーも起こりやすいんですって。適当に汚い環境で育った子供ほど、免疫があるので、アレルギーにはなりにくいそうよ。
お二人の対談では、最終的な結論としては、いわゆる脳を中心とした自己の捉え方と、免疫(身体)を中心とした自己の捕らえ方はまるで違うということかしら。
一般的に考えると、自分を知ることというのは、「我思うゆえに我在り」だけど、免疫学でいくと、そうではなくて、「非自己以外のものが自己」ということだそうです。
このあたり、ちょっと説明が難しいのだけど。
このセミナーは今まで参加していたような科学好きという人が参加するセミナーというよりも、平野さんファンとか、哲学好きという人の参加も多くて、雰囲気がまるで違っていて、それが面白かったわ。
そういう文学などのところから科学に入ってきてもらいたい、という主催者(理研)の意気込みが感じられました。
理研の研究者も出席していて、特に前回の講師をしたバイオ研究の上田先生という方が、すごくかっこよかったわ。
それに、このセミナーの企画・運営はすべて理研広報部の女性がしているようで、こういうお仕事ができるというのは、なんとも羨ましく思ったわ。
それとね、今回のことで、日本免疫学会のHPを見たのだけど、この学会って、なんと6000人以上もの会員がいるんですってよ。私の学会の10倍よ。
とくに、このページは分かりやすそう。連休の間に催し物もあるみたいだし、行ってみようかしら?
セミナーが終わって、急いで帰宅してしまって、六本木の夜も楽しめなかったけれど、でも何か新しいことを知りたいという欲求は満足されたかしら。
平野さんも谷口先生もそれぞれのお立場でご自身の欲求、つまり「小説家として人間を知りたいという欲求」や「科学者として真理を知りたいという欲求」を探求しながら、毎日を生きていると話していたの。
平野さんは30歳代、谷口先生はもうかなりのお年だと思うけれど、お二人の年齢差を感じさせられない対談は、私自身の刺激にもなりました。
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