2010年2月17日水曜日

「無欲越え -熊谷守一評伝-」

中国の古いことわざに、読書をするのは「冬・雨・夜」がよい、というのがあるそうです。
この冬は寒い雨が続いているので、読書にはぴったり。

というので、今日のブログは読書感想です。

「無欲越え」は、明治・大正・昭和を生き抜いた画家・熊谷守一の人生を縦糸に、彼と同じ時代に生きた人たち(夏目漱石など)との生き方の対比や、交流のあった人々(志賀直哉、谷川徹三など)との手紙などのやり取りを横糸にして、あるがままに生きた熊谷の97年の生涯を紹介している本です。


著者の大川公一さんという方は、成城学園の国語の先生や校長の経験がある方で、熊谷守一の絵に魅せられて、彼の描いた絵なら全部鑑賞したことがあるとか。すごいですよね。

この本は、従来の伝記ものとは異なって、この特異な画家が生きた明治から昭和までの時代的背景がよく分かる本です。

熊谷守一の「オレはオレ」という生き方がメインになっています。

その原点は、彼の父親は初代岐阜市長を経て、国会議員までなった人でしたが、彼はその父親の若い愛人に育てられ、大勢の大人の中で生活してきたので、小学生のころから世の中のことを分かってしまい、人と争うのを避けるようにして生きてきたと、判断しています。

世の中に熊谷ファンはたくさんいるでしょうけれど、この著者ほどのファンはいないことでしょう。熊谷守一が残した絵や書、手紙や日記を詳細に分析しています。


私が先日、熊谷守一美術館でその絵を見て、一番気になったこと、それはある時代から彼の絵に赤い線の縁取りがでてきたことでしたが、どういう理由でそういう画風になったのを知りたかったのですが、そのあたりはあまり詳しく書かれていなくて、ただ熊谷が、「そのころ、気持が大きくなった」と言ったということくらいしか、分かりませんでした。

私は、熊谷守一の自画像や写真を見ていて、「この人はまるでキリストのようだ」と思ったのですが、やはり熊谷の周りにはそのように感じた人も多くいたようで、私は自分の直感がそれほど的外れではなかった、とほっとしました。ぼうぼうの髪の毛や落ちくぼんだ目、よれよれの服装、そして子供好きなことなど、キリストとはこんな人ではないか、と思ったのでした。

それにしても貧しい生活の中、「絵を売る」という発想を持たず、ただ絵を描いていただけの画家、というのは一緒に生活していた奥さんにとっては辛いことだったろうと思います。それでも子供が次々に生まれて、どうしても生活費が必要になり、ようやく絵を売る、ということに至ったようです。

その奥さんとのなれそめもこの本に書いてありましたが、その女性は、親友の弟さんの奥さんだった人で、三角関係の中からその人を奪って結婚したそうです。熊谷が40歳近く、そして奥さんは18歳年下でした。
お金もない、中年の貧乏画家と所帯を持つ、というのはよほど覚悟がいったことでしょう。

それでも熊谷守一という人は多くの友人や知己に恵まれていたようで、いつも彼を金銭的・精神的にサポートしてくれる人が周りにいました。人徳なのでしょうか。

この本には、彼が文化勲章を辞退したことや、毎日の食事の内容まで詳しく書かれています。本当によく調べ上げたものだと思いました。

何より感心したのは、熊谷守一が生きた97年間には、武者小路実篤も、黒田清輝も、モネもルノアールも、ピカソもみんな生きて亡くなってしまったという年表が作成されていたことでした。この表を見ると、現代日本の絵画や文学の歴史が一目瞭然に分かるのです。こういうことに取り組んでいる人は少ないのではないでしょうか。

5月には、熊谷守一美術館創立25周年記念があり、常設展とは違った作品が見られるそうです。
また、その頃に出かけてみたいと思いました。

10 件のコメント:

  1. マサ2/18/2010

    先日、Y新聞にも熊谷守一さんのことが載っていました。
    お金にも地位にも無頓着で、その生き方や風貌から「仙人」と評されたそうですが、キリストみたいといえば、そんなふうにも思えるわ。
    どこか惹きつけられる絵ですが、その生き方にも興味が湧きました。
    美術館へ、私も行ってみよっと。

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  2. お、さすがマサさん御用達のY新聞ですね。熊谷守一の特集があったのね。そうなの、髭が長いから仙人と呼ばれていたそうだけど、私はキリストみたいだと思ったわ。
    でもね、こういう人が旦那さんだったら大変よ。一日家にいて、絵を描いているだけでしょ。ちょっと同居するには適しないかも。
    美術館で本物をご覧になってきてね。

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  3. 史aya子2/18/2010

    お名前だけは、小さい頃からしょっちゅう見ていましたが・・・
    行ったこともないしこんな人だったなんて(恥)
    両親は何回か行っているようですね。
    そうそう、そのカフェの名前に見覚えがあります!
    通ったことがあるのかな?
    この本にも興味があります。
    読んでみたい。
    今日は寒過ぎて、ひたすら縮こまっておりましたが、もう少ししたらお花を探しがてら、ブラブラ歩いて行ってみます。


    しかし、遠方のとしちゃんさんにご紹介して戴くとは・・・
    情けなやw

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  4. 匿名2/18/2010

    としちゃん
    熊谷守一さんの生き方に惹かれますね
    でも、自分の夫だとしたらちょっと
    腰が引けるかも。
    私、結構欲深ですから。笑

    でも、本は是非読みたいわ。
    それから5月の創立25周年記念にも
    行って来たいと思います。

    情報嬉しいです。ありがとう!

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  5. 史子さんのところからだったら美術館まで歩いていけるんじゃないかしら。ごく普通の住宅街でした。
    でも灯台もと暗しというから、意外と自分の住んでいるところは知らなかったりするんですよね。
    この本は面白いですよ。
    この方、手紙とかよく取っておいた人のようで、それが良い資料となっていますよ。

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  6. 匿名さん、真蘭さんかしら?
    ちがっていたらごめんなさい。

    ほんと、私もこういう人が夫だったらちょっと困るかな。生活費を稼いでくれないんですもの。でもこの人、お友達にはとても恵まれていたようで、たくさんの人が貢いでくれていたようですよ。人徳があったのでしょうね。

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  7. 真蘭2/19/2010

    ハハハハハ!
    もう、ドジなのは真蘭と
    バレバレですね。^_^;

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  8. ふふ、ばれています!

    彼の奥さん、ご主人が文化勲章を辞退したとき、もったいないと思ったそうですよ。もらっていたら、年金ももらえたんですって。そりゃもったいなかったわよね。

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  9. カンカン2/19/2010

    無欲越えのタイトルがすごいですね。
    私も美術館に行ったことがないので
    5月に行ってみようかな・・
    ちひろ美術館さえ行っていないのよね。
    近場は盲点だわ・・いつでも行けると思うとなかなか行かない。
    中川一政さんも好きな画家です。
    真鶴の美術館に織りの仲間と行ったことを
    思い出します。

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  10. カンカンね、無欲を越えたら何になるのかな? と、ふと思いましたよ。
    ちひろ美術館は私も行っていないわ。近いといつでも行けると思っちゃいますよね。

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