この「千年の黙(しじま)」という本は、著者の森谷明子(もりやあきこ)さんという名前は聞いたことがなかったけれど、鮎川哲也賞を受賞作品で、しかも「源氏物語」が付いている本なので、いったいどんなものだろうとわくわくしながら読んでみました。
そう、鮎川哲也といえば本格推理小説の大御所ですよね。そんな賞を受賞されたというのですから読まないわけにはいきませんよね。
それに、表紙にある猫ちゃんの絵も可愛らしかったので、スイスイと読み始めました。
この本は2センチくらいの厚さのある文庫本ですが、実は2回読みました。
というのも1回読んだだけだと、ちょっと登場人物がごちゃごちゃしていたのです。
つまり登場人物が中将殿とか左大臣とか、中宮とか女御とか、当時は人の名前を肩書で呼んでいたので、誰のことか分かりにくかったのですよね。
でも2回読んで、この本はかなり優れた内容であり、著者の森谷さんという人の知識量のすごさに改めて驚きました。
この本は簡単に言ってしまえば、平安朝を舞台とした推理小説です。
でもミステリーというジャンルではありますけれど、殺人事件や強盗事件が起こるわけではなく、猫が疾走したとか、原稿が紛失してしまったとかいう、まぁありふれたできごとを、源氏物語の作者である紫式部が推理していくというお話です。
たわいもないといえばそれまでですけれど、その中には著者の源氏物語に対する深い洞察力があって、源氏物語ファンの私としてはかなり満足できる内容でした。
お話は三部構成になっています。
それぞれの事件は
第一部は帝の飼っている猫がいなくなった事件。
第二部は源氏物語のある章が紛失した事件。
第三部も源氏物語のある章が消えてしまった事件。
登場人物は
・紫式部と思われる藤式部こと香子がシャーロックホームズばりの探偵役。
・彼女のおつきの「てこな」がワトソン君役。
・「てこな」のボーイフレンド(のちに夫となる)である下級武士。
・中宮彰子様 香子は彼女の女房となります。
・中宮元子様の女房のそのまたおつきの「いぬき」という少女。
・当時の権力者・藤原道長。
・その他、当時の帝や大臣たち。
・中宮影子様のライバルでもある定子様の女房・清少納言も嫌味な女房として登場します。
そんな平安時代の人たちが、ミステリーを解きながら、「源氏物語」のストーリーの中で不審な点があるということに気づき、それを元にして、紫式部が最初に書いた源氏物語が写本をするうちに変化していったのではないかという核心に触れることができます。
このあたり、源氏物語をいろんな人の訳で何冊も読んだ私にはとても面白い発想だと思いました。
つまり17歳の光源氏が彼の継母である美しい藤壷とはいったい、いつ、何回出逢ったか、そして彼女がご懐妊したのはいったいいつの時期であったか、ということがこの本を読んでいくうちに明白になるのです。
実際に紫式部の書いた原本にはどのように表現されていたか分かりませんが、訳本を読む限り、非常にオブラートに包まれたような書き方なので、どうにでも取れるという問題がありましたが、それをこの著者は見事に解明してくれたので、とてもすっきりしました。
それはミステリー以外の大きな収穫物でした。
森谷さんは他にも面白い本を書いているそうなので、それも読んでみたいと思いました。
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