2011年7月21日木曜日

「てのひらのメモ」

夏樹静子さんの小説は若いころからほとんど読んでいますね。

もともとあの方はNHKの「私だけが知っている」という昭和のテレビ初期時代のドラマの脚本を書いて、その後、お子さんを育てながら推理小説を書いていた方なのです。

夏樹さんの小説は推理小説というジャンルを超えて、社会問題を切り口にして、女性の生き方まで探るという側面もあり、とても興味のある作家です。

この「てのひらのメモ」はその夏樹さんの最近の小説で、一言で言うと、裁判員裁判のお話です。


裁判員になるという確率はかなり低いと思うのですが、この小説の主人公の専業主婦は、その裁判員の補欠になってしまった人です。初めのうちは補欠だったので割と気楽に構えていたのですが、あるとき、裁判員の一人がどうしても参加できずに、急に正式な裁判員になってしまいました。

その裁判というのは、あるキャリアウーマンが6歳の男の子を死なせてしまったという事件を裁くものでした。
彼女は夫が急死してからは女手一つで男の子を育てていましたが、その男の子には喘息の持病があり、時々発作を起こしていました。ところがある日、彼女の仕事が一番大変な時にその男の子が喘息を起こし、でも彼女はもうじき収まるだろうと言う判断を下し、仕事に打ち込み、そして付き合っていた男と再婚の相談をして遅くなり、子どもを放置してしまったために、自宅に戻った時にはその男の子は死んでしまったという事件を裁くものでした。

裁判員たちはその証人の証言をもとに、そのキャリアウーマンの心情を探るようになるのですが、子どもの病気ということに対して、「もうすぐ治るだろうからちょっとの間は大丈夫」と思うのか、「どうしても母親がそばにしてあげたい」と思うのか、そのあたりは本人もあっちこっちに揺れ動いていたと思うのです。

この事件を誰が正当に裁けるのでしょうか。

この話を読んでいるうちに、裁判員裁判のやり方や難しさがよく伝わってきます。

法廷の物語というのは、難しい用語が多く、時にはつまらなく感じることもあるのですが、でもそこは推理小説第一人者の夏樹さん、どんでん返しを用意しています。

この本はかなり分厚い本ですが、ほぼ1日で一気に読んでしまいました。

誰にでも廻ってくるかもしれない裁判員裁判のことが良く分かり、そして読み手の読み手の判断をつきつけられます。

これは映画やテレビドラマにぴったりじゃないかと思っていたら、なんとあの田中好子さんが主人公役で昨年NHKで放映されたそうです。こちら▼

裁判所だけの話だけではなく、主人公のはかない恋心や、義母や子どもたちに対する気持ちなどがうまく描かれていましたが、スーちゃんにはぴったりの役柄だっただろうと思いました。

かなりお奨めの本だと思います。

2 件のコメント:

  1. 史子7/24/2011

    買ってしまいました(笑)
    お奨めされちゃいました~
    今週中には届くようなので
    楽しみです!

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  2. 史子さん、そうですか、この本を読んでおけばいつ裁判員になっても大丈夫ですよ。
    でもあまりなりたくないなとも思います。
    わが身を振り返ればそんなに正義だらけの人間ではないのに、人のこと言えるか、という感じでした。

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