2012年3月27日火曜日

「三都画家くらべ」

先日、府中市美術館に「三都画家くらべ」▼という展覧会を見に行きました。
サブタイトルは「京、大坂をみて江戸を知る」というものでした。


江戸時代の絵画を時代別に観賞するのではなく、地域ごとに分けて、その違いを楽しむという趣向の展覧会でした。

江戸時代といってもその歴史は280年ほどあるのですから、その時代性を無視して単に地域で区切るというのはちょっと無理があるような気もしましたが、それでも江戸の昔は東海道を行くのに10日から2週間ほどかかったわけですから、今よりも地域の特色というのが濃かったのでしょうから、そういう区分けがあってもいいのでしょう。面白い切り口だと思いました。

現代なら、東京で起こったできごとがインターネットやツイッターを通じて瞬時に大阪でも京都にでも伝わってしまうのですが、江戸時代には手形がなければ旅行も簡単にできなかったわけですから、今よりもずっと江戸は江戸らしく、大坂は大阪らしい雰囲気があったのだと思います。

展覧会を見る前に、学芸員さんからスライドを見ながらレクチャーがありましたので、そのお話をちょっと紹介します。

京の画家たち


(展覧会の会場の外に飾ってあった撮影OKの絵ですが、ここは八坂神社のようですね)

まず京は、円山応挙や土佐光起など、大和絵の流れ絵をくむ画家が多く、その絵は色彩が鮮明でした。
その例として岸駒(がんく)という人の牡丹と孔雀の絵を紹介していましたが、花弁の一枚一枚、孔雀の羽根の一本一本がとても繊細に描かれていて、うっとりとするくらいでした。

お次は大坂


(場所はちょっと忘れてしまいました)

京の絵に比べると、大坂の泉必東(いずみひっとう)という画家の描いた牡丹と孔雀は同じような構図なのですが、絵も色も線もあっさりとしていて、なるほど、これが大坂風なのかと思いました。

そして江戸


(ご存じ日本橋の風景ですね)

江戸の画家は、安土桃山時代の狩野探幽の流れをくんでいるそうですが、空間(余白)に美しさが見られるような絵が多くありました。幕府の御用絵師として活躍した人も多く、狩野永徳のころに江戸風が確立されたようです。
そして江戸の絵というのは、京や大坂の絵に比べて、博物学を元にした精密さや科学性を持った絵も多くなり、18世紀の宋紫石(そうしせき)という画家の蓮池水茎図は蓮の繊細さと美しさ、そして大胆な構図がマッチして面白い絵になっていました。

また江戸の画家は西洋の絵画に影響された人も多く、幕末の司馬江漢(しばこうかん)という画家の絵はまるで西欧の絵画のようで、遠近法を用いていて、日本画とは思えないようでした。西欧の画風を取り入れるというのはやはり江戸の画家の特徴だったようです。

以上は地域の特性ですが、絵画に「笑い」という要素を取り入れたのは、関西の画家に多かったようです。
とくに長沢蘆雪(ながさわろせつ)という画家の「なめくじ図」はひと筆書きのような絵でしたが、なめくじを画材にするなんて、意外でしたね。この画家はナメクジのほかにも猿や虎などの動物の絵もたくさん描いていました。

また商人の町といわれた大坂の絵画は、「文人画」と呼ばれるジャンルのもので、もともとは中国の文人が余技として絵を描いた絵のことをさすのですが、大坂でも絵の専門家ではない商人などが趣味が高じて描くことが多く、水墨画が多かったようです。

私自身は色のない絵はあまり興味がなく、どれを見ても同じように思えてしまうのですが、絵を描くことが教養人としてのステイタスでもあったのでしょうね。

前にも▼にも書きましたが、ここの美術館は相当のおかねと人材をつぎ込んでいるようでした。

建物も豪華でしたが、パンフレット類もかなり気を入れて制作しているように思えました。


春らしい黄緑色でまとめたパンフレットです。
こちらのポスター▼も同様の配色ですね。

展示品のカタログのほかに、画家を五十音に並べて簡単な説明もありました。


子供向きにはクイズ形式のパンフレットもありましたが、これが結構面白くて、大人の私でも観賞に役立ちました。


私が興味を魅かれたのは、渡辺崋山の絵でした。
この方は三河の国の田原藩士として江戸に生まれましたが、非常に貧しかったため、最初は家計を助けるために絵を描いていたそうです。つまり武士の内職だったのですね。扇に花の絵を描いたものはとても美しい絵でした。肖像画なども多く描いていました。
彼はその後、藩の家老となりましたが、幕府を批判したことにより蟄居を命じられ、のちに失意のうちに納屋で切腹をしたそうです。
武士の家に生まれていなかったのなら、思う存分絵を描いて一生を送れたでしょうに、政治の世界にいたために悲惨な運命を送った人だったようです。

私は絵のことはよく分からないのですが、その画家の生涯を知るほうが面白く感じられます。
美しい絵を描く人はいったいどんな人だったのだろう、どんな生き方をしていたのだろう、ということが知りたくなります。
どうやってその感性を磨きあげたのだろうと思ってしまうのです。

画家でも作家でも、その人の生涯を知って、そしてその生涯のうちのいつごろに作られたのかが分かると、作品に接するのが面白くなりますね。

2 件のコメント:

  1. siroajisai3/28/2012

    はじめてコメントいたします。
    某ひつじキッチンで右隣に陣取っていた者です。その節は大変お世話になりました。

    “絵のことはよく分からないのですが、その画家の生涯を知るほうが面白く感じられ”るなんて、私一人かと思っていましたので驚いております。今回のブログも大変興味深く拝見いたしました。

    これからもすてきなお話、たのしみにしています♪♪

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  2. siroajisaiさま、お久しぶりです。
    ひつじキッチンでご一緒したのはたしか桃の節句のときでしたよね。その節はお世話になりました。

    私は絵のことはまるで素人なのですが、昨年、「琳派の画家たち」を扱ったお勉強会(市のカルチャースクール)で学芸員の方から江戸時代の画家の生涯などを聞いて、それで絵よりもその人の人生などに興味を持ったのですよ。

    失意のときに描いた絵とか、お金もたんまり増えたころに描いた絵など、見比べてみるのも面白そうですよね。

    つたないブログですが、毎日更新しておりますので、どうぞお気軽にまたお遊びにいらしてくださいね。

    返信削除

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