「美貌の女帝」というタイトルからすると何やら少女コミックのようですが、実はこれはかなり重厚な歴史小説です。
それにしてもあまりに恥ずかしいタイトルなので、電車の中では、こちらのブックカバー▼をつけて読んでいました。
なぜ奈良時代の本を読んだかというと、先日、奈良学のお勉強会▼に参加するにあたり、一夜漬けで奈良の歴史を復習したのですが、その時に奈良時代を扱った小説がいくつか取り上げられていました。その中の1冊が、永井路子さんのこの「美貌の女帝」だったのです。
奈良時代はその前の推古天皇のころから、何人かの女性天皇がいました。
同じ女性が2度、天皇の位についたこともありました。
今、女性宮家の創設が世間をにぎわしているようですが、奈良時代のことを思えば、女性の天皇がいてもおかしくないかもしれませんね。
当時は女性の天皇というとある天皇の奥さんであったとか、ある天皇の母親であったかというのが多かったようですが、この小説の主人公である元正(げんしょう)天皇という方は実は未婚の女性でした。
当時は氷高(ひたか)皇女(ひめみこ)と呼ばれていました。
彼女は弟の天皇が早死にしてしまってそのピンチヒッターのような感じで登場するのですが、なかなかしっかり者だったようです。
若いころには好きな男性がいて、本当ならその人と一緒になって幸せな一般女性として生きていくところだったのですが、ある占いの「結婚しても幸せになれない。それよりも重大な仕事がある」というお告げにしたがい、その男性とは別れてしまいます。
そしてなんということか、その男性は彼女の妹と結婚してしまうのですね。
実はこの男性こそ、歴史上有名な「長屋王」という方で、彼女が天皇になってからはなにかとよい相談役になり、支えとなってくれるのですが、その彼は奥さん(天皇の妹)や子供たちもろとも、藤原一族に恨まれて暗殺されてしまいます。
このころの時代背景は、天皇の一族と藤原一族、そして蘇我一族が争っていたのですが、藤原氏や蘇我氏は娘を天皇のお后にすることによって、力を増していきます。
(これは平安時代の藤原道長のころに一番目立ちますが、その先がけですね。)
この本の主人公である元正天皇も蘇我氏の血統を守ろうとしてあれこれ策を練ります。
こうやってみてくると、天皇家の歴史というのもかなりぐちゃぐちゃしていたのだなと思いますね。
とくに「壬申の乱」の恨みつらみが、あちこちに見え隠れしていて、それほどまでに先人たちの影響が深いのかと驚くほどです。
この小説の主題はもうひとつあって、それは仏教との関連です。
私たちは学校の歴史の時間に東大寺の大仏のことは習いますが、それも簡単に作られたわけではなく、あちこちの場所を選んで、また先に書いた長屋王から没収した財産をもとに作られたのだということも分かります。
この美貌の女帝は天皇という地位になり、人生は幸せだったのか、不幸だったのか、どちらだったのでしょう。
どの程度の美人だったかは分かりませんが、小説を読む限り、「すみれ色の瞳をした」凛とした美しい方だったような気がします。
歴史の時間に習った奈良時代は、単に華麗な平安時代の前菜くらいにしか扱われていなかったうようですが、小説を読むとこんなにも人間臭くて面白い時代だったのかと改めて感じました。
永井路子さんの本はどれを読んでも非常に面白いのですが、この後に読んでいる「氷輪」(上下巻)はあまりにも内容が仏教界の専門的すぎて、途中で挫折しそうです。
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