2016年10月27日木曜日

「花埋み(はなうずみ)」

「学問好きの娘なんて家の恥」という風潮が根強かった明治初期、日本初の女医を目指す一人の女性がいました。
その名は、荻野吟子。

渡辺淳一の「花埋み」」はその荻野吟子(ぎん)の一生を描いた物語です。


彼女は16歳で結婚しますが、その夫から性病を移され、そして病院で男たちに膝を開かれながら診察されるという屈辱の中、「私が医者になれば、こんな苦しみと恥ずかしさを受ける女性はなくなるのだ」と決心します。

そしてさまざまな偏見と障害を乗り越えて、日本で初めての女医の資格を得ます。
病気の人を直す女医の活躍が認められて、女史としても講演会などに呼ばれるようにもなりました。

彼女の一生はそれだけで素晴らしいのに、中年になって、また別の険しい道に進みます。
それはキリスト教徒となり、16歳も年下の信者の男性と結婚して、厳しい北海道開拓にも参加したのでした。

一生、闘い続けていた女性だったと思いました。

彼女の生きた時代は、今とはまるで異なり、ほんとうに険しいものでした。
男の中に入り、いつも毅然とした態度で勉学に打ち込みました。

吟子は医者になるための方策として、まずは東京女子師範(今の御茶ノ水大学)に入学して、そして医師を目指したのですが、己の意思を貫き通したという意味ですごい人物だなと思います。

彼女は勉強だけでなく、裁縫や生け花や和歌にも才能があり、なんでもできてしまう人だったので、かえってそれが他の女性からうとまれたのかもしれません。
しかし彼女の努力はすさまじいもので、尊敬に値するものでした。

今の女性は、このような先人がいたからこそ、活躍する場所も広がったのだと思います。

渡辺淳一の描く小説と言えば、たおやかな女性がヒロインになることが多いようです。
またエロティックな場面も多いのですが、この「花埋め」に関していえば、同じ作者のものとは思えないようなものでした。




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