今日の読書案内は、朝井まかてさんの「最悪の将軍」です。
最悪の将軍って誰のことだと思いますか?
それは犬公方として悪評の高い徳川五代将軍・綱吉のことです。
悪法と言われた「生類憐みの令」を出した人ですね。
三代将軍・家光の子どもとして1646年に生まれ、1709年に亡くなっています。
この小説では、彼が将軍に就くまでのことから、将軍として為したことを、彼自身、高司家出身正室・信子や側室のお伝、美貌の母親桂昌院などの眼を通して描かれています。
ただ小説を読んでいくと、「最悪」というのは、反語のようなもので、実際は綱吉は「仁政」を目指していた人のようです。
文治政治を行いたいと願っていました。
政治の中身は別として、彼の生きてきた時代が悪かったのでしょうね。
各地で大地震や洪水が起き、また江戸ではお城まで焼けてしまう大火があったり、なんと富士山も大噴火を起こしてしまうような時代でした。
そして社会面ではあの赤穂浪士の討ち入りがあったりと、これは綱吉でなくても誰が将軍であっても、取り組むべきことが多すぎて、難しい時代だったのではと思いました。
現在の日本のことを考えてみると、台風や地震、津波などの自然災害は毎年のように報道されています。凶悪犯罪も起きています。
ところがそれに真剣に対処している総理大臣や政治家などはいるのでしょうか。
綱吉の方がよほど立派ではなかったのではないかと思えてしまいました。
ずいぶんと誤解されている人だと思いました。
綱吉は自分は中継ぎの将軍であると自覚していて、自分の子どもは亡くなってしまったので、次の代の将軍は、兄(四代将軍家綱)の息子に引き継いで、政治の世界から身を引きました。
当時の将軍夫妻にとっては、お世継ぎを作ることだけが、一大事だったのでしょうね。
そして綱吉は、可哀想に当時の流行り病である麻疹に侵されて亡くなってしまいます。
なんだか可哀想な人だと思いました。
さてこの本の著者である朝井まかてさんですが、今までの文体とはがらりと変わっています。
それはこれまでは職人や商人が主人公のお話を書いていましたが、今回は将軍が主人公だというので、文体まで変わってきました。
どちらが良いとは言えませんが、いろいろな人物を掘り起こして物語を作るのは、すごいと思いました。
ただしタイトルは、もう少し考えた方がよかったのではないかしら。
「最悪」ではちょっと可哀想だわ。
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