図書館で借りた文庫本「江戸夢あかり 市井・人情小説傑作選」を読んでいたら、その中にとても面白い短編がありました。
永岡慶之助という人の「宮崎友禅斎」です。
この作家は、歴史小説家ですが、「小説・日本名匠伝」を書いていて、実在の人物の伝記モノが得意な方のようです。
さて、宮崎友禅斎といえば、友禅染めの創始者として有名ですが、詳しいことはあまり分かっていない人です。
元禄時代に活躍しましたが、生まれも京都という説があったり、金沢だという説もあります。
亡くなった場所も金沢という説もありますが、あまりはっきりしていません。
分かっていることは、それまで京都の知恩院前で扇面に絵を描いていたが、ある時から小袖の模様を描いて急に名声を博した人であるということ。
それで「友禅染め」という言葉が生まれたとか。
また元禄時代に「ひな形本」を刊行したことは有名です。
当時のデザイナーのような存在だったのでしょうか。
ただし、扇面のように紙に絵を描いていた人が、どうして急に布地に絵を描くようになったかは不明です。
永岡慶之助はその謎に目を付けて、彼なりの物語を作りだしました。
そこには、「梶女」という女性とのめぐり会いがあったというお話です。
梶女は元は祇園の茶屋の娘でしたが、美人で有名で、また和歌の名手でした。
友禅斎にとっては、理想の女性でした。
この2人の間はプラトニックだったようですが、小説では「定家葛の塚」(藤原定家と式子内親王との恋愛)での運命的な出会いがありました。
彼女の和歌集「梶の葉」には友禅斎の挿絵がありました。
その出会いによって、友禅斎の人生が変わったというお話です。
いずれにせよ、友禅斎と梶女の関係は想像の世界でしかありませんが、その二人の出会いにより、友禅斎が一介の扇絵職人から、「友禅染め」の発案者として後世に名を遺すまでになったという物語は、新鮮に感じました。
私は、こういう実在の人物の裏話のような小説が大好きです。
なお、永岡永岡慶之助は、会津生まれの人なので、会津藩の戊辰戦争については非常に強い思い入れをしている人です。
今は「戊辰の時代(会津戦争始末記)」というのを読んでいますが、これは小説ではないので、ちょっと読みづらい内容です。
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