2019年4月16日火曜日

「落陽」

朝井まかてさんの「落陽」。


この小説の冒頭は、少年だった明治天皇が鳳輦(ほうれん)という特別な乗り物に乗って、「京の都」から、かつては江戸と呼ばれていた「東京」へと移動する場面でした。

明治天皇のことを小説にするなんて、すごく挑戦的な内容なのね、とどきどきしながら読み始めました。

ところが少しすると、それは違ったのだと気づきました。

この小説は、明治天皇を祀ってある明治神宮の造営のお話でした。

明治神宮は、若い人の間では「パワースポット」として、また憩いの場としても有名になっているようですが、ここは明治天皇と、その奥方である昭憲皇太后をおまつりしてあるところです。
JR原宿駅から近いところにあり、外国人の観光客の姿もよく見かけます。
今でこそ明るい雰囲気もあり、結婚式などもとり行われていますが、大正当時は鬱蒼とした森だったようです。
明治天皇が亡くなられて、およそ10年後に完成したのでした。

この「落陽」の中では、明治天皇自身は登場せず、また政府の要人とか、宮内庁の人とかの有名人は登場せず、その話をスクープするような立場にある三流新聞の記者が主人公なので、えっ? と拍子抜けしました。
読み進めていくうちに、いつかは面白くなるのだろうと読んでいましたが、最後までそんな調子で、ちょっと裏切られたような・・・・。

ただし、大正時代の空気は伝わっているような感じです。

また、明治神宮を造営するためには、苦労した人が大勢いた、ということは伝わりました。
日本中の人から貢がれた木は10万本、勤労奉仕はのべ11万人だそうで、それだけの労力がかかっていたのですね。
また植林する樹木の種類についても、植物学者などの論争もあったようでした。

この小説を読んでいくうちに感じたことは、それまでの幕藩体制を打破した明治とは何だったのだろう、ということでした。
諸外国に追いつけ追い越せで帝国主義が進み、世界大戦にも突入した時代。
それは明治天皇一人が推し進めたわけではないでしょうけど、そこは描かれていないで、急に亡くなったあとの明治神宮造営だけが出てくるので、ちょっと戸惑いました。

それまでの江戸幕府の体制を打破したのはすごいパワーがあったのだろうとは思いますが、明治は、江戸の良さを解体してしまったのも事実ではないかしら。

朝井さんには、明治天皇の存在価値とか、明治時代とは、ということに取り組んでほしかったけど、浅井さんはそういうことを描く作家ではないと思うので、それはまた別の作家に書いてもらったら面白いでしょうね。

辛口になってしまってすいませんが、浅井さんの愛読者としては、葛飾北斎の娘を描いた「眩 (くらら)」などの力作に比べたら、分厚い割には読後感がもの足りませんでした。

ただしこれはあくまで私だけの感想ですので、こういう特殊な分野に切り込んだ、著者の意気込みを絶賛する人も多いと思います。


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