今から数十年ほど前のこと、大学に入学した私は、何を勘違いしたのか、ワンダーフォーゲル部という部に入ることにしました。通称ワンゲル部です。
そこでは最初は校庭をランニングして体力づくりをしたり、リュックに荷物を詰める方法などを学んだりしました。どういうわけか、すごく美人の先輩が多かったことを覚えています。
そして最初に山に登ったのは、たしか6月頃だったと思います。シトシトと雨の降る中を丹沢方面まででかけた記憶があります。重い荷物を背負い、歩けなくなりそうなほど頑張りましたが、もう二度とこんな辛いことはやりたくないと思い、登山の後ですぐに退部してしまいました。
そんなヤワな体験しか無い私が、どういう風の吹き回しか、新田次郎さんの「孤高の人」を読みました。
これは大正から昭和の初めにかけて実在した、加藤文太郎という登山家の話です。
当時、登山というのは、ごく上流階級の人だけが楽しむ高尚な趣味であり、またグループで行うものと信じられていたそうです。
そんな時、学歴もない、一介の製図工である加藤が、単独で山を制覇するというのは、非常に稀なことだったそうです。
彼は兵庫県の日本海側にある小さな海辺の村で育ちましたが、地図を読む力、天候を見通す力、準備にかける努力、非常に強いメンタルとそして稀に見る早足で、信じられないほどの山々を次々と短時間に制覇しました。
「地下足袋の加藤」とも呼ばれていました。
しかし彼は山の中では優れていましたが、社会生活においては人付き合いが下手で、不器用な生き方しかできない山男でした。
そんな彼にも好きな女性が現れ、結婚して子供まで生まれるのですが、しかしどうしても山の魅力には逆らうことができず、ついにグループで冬山に挑戦してしまいます。
そして、、、。
この本の著者の新田次郎は、彼自身も山を愛する人で、また気象庁に努めていたことから、天候などにも詳しい人でした。そのため、山の風景や、自然の恐ろしさを美しく的確な用語で綴っていました。
ただ、昔に書かれたものなので、女性の表し方が類型化されていると思いました。悪女パターン、愛妻パターンの女性が登場しますが、女性というのはそれほど単純な生き物では無いと思います。もう少し女性の複雑な心情も描いてくれたら最高だったことでしょう。
とはいえ、読者を山の世界に引き込む技は素晴らしく、上下巻の文庫でしたが、ページをめくるのももどかしいほど、数時間で読み終えてしまいました。
加藤文太郎のことは映画や漫画でも扱われたことがあるそうですが、やはり新田次郎の文章の力はすごいと思いました。
読書は満喫しましたが、私はせいぜい標高600メートルの高尾山で満足しておこうと思います。
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一日一句
命かけ 吹雪を歩く 山男
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