最近、一番おもしろいと思った小説です。
二度、読み返しました。
それは山崎豊子の「花紋」
大正時代の歌壇に、彗星のごとく登場した実在の人物「御室みやじ」の美しくも儚い人生を描いた小説です。
どこまでが事実で、どこからが作者の創作なのか分かりませんが、大阪の河内長野という地域で、長年に渡り大地主として栄えた家の総領娘の物語です。
彼女は幼い頃から、周囲の人間にかしずかれて育てられ、ろうたけた美貌と類まれな和歌の才能のある女性に成長しました。そして国文学者の荻原秀玲という研究者と巡りあい、宿命の恋愛に落ちてしまいます。
そのみやじには、長年、仕えた一人の老女がいました。
和歌に興味のある一人の若い女性(山崎豊子の分身でしょうか?)が、その老女をインタビューするという形で物語は進みます。その老女の言葉遣いの美しいこと、女主人を慕う気持ちが見事に描かれています。
ヒロイン自身が優雅で高尚であることに加えて、物語の構成も非常にうまく、ミステリアスな部分もあり、どんどんとお話に引き込まれていきます。
戦前の大地主の家長制度などは、あまりに現代と違いすぎて信じられない話の展開もありますが、それ以上にみやじの魅力に取り憑かれること、うけあいです。
昭和49年(1974年)に書かれた小説です。
とてもおもしろいのに、「花紋」という題名がちょっと残念な感じがしました。
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もう一冊は、やはり実在の女性を描いたもので、諸田玲子さんの「月を吐く」。
これは今年の大河ドラマ「どうする家康」にも登場している家康の正妻・築山殿を描いたものです。
私はテレビの「家康」は、最初の1回だけ見て、有村架純というタレントが築山殿をしていたので、なんだかがっくりしてそれ以降、見ていません。
築山殿は昔から悪妻の見本ともいわれている女性ですが、こちらの小説では政略結婚させられた可哀想な女性として描かれていました。
戦国時代でも嫁・姑の問題はあったし、織田家と徳川家の関係もややこしいし、身分違いの恋愛なども織り込まれていて、現代と同じだなと思うところもありました。
そういえば植松三十里さんの「家康の母お大」は、築山殿の姑に当たる家康の母を描いたものですが、こちらはお大が非常に子煩悩に描かれています。
それにしても日本の女性は、政争の道具とされ、自分で自分の運命を決めることはできなかったとのだ、という印象を持ちました。
自分の意見をなかなか言うこともできず、意に沿わないこともたくさんあっても、家のため、夫のためには従わざるをえなかったのでしょう。
実在の人物、とくに女性を描くとなると、史料も少なく、作者の想像力がものを言います。歴史の裏側を見ることができるようで、私はそういう小説が大好きです。
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「一日一句」
春の宵 あの人たちの 愛を読む
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