2007年12月29日土曜日

脳科学のお勉強 3


第3章 「知性の起源-未来を創る手と脳のしくみ」

この章を書いたのは、入來篤史さんという方なのだけど、すごく素敵な方なので、入來先生と呼ばせていただくわ。

10月に「脳と教育」というシンポジウムが東銀座であったときに、初めて先生のお姿を拝見したの。

それまでお名前と写真でのお顔は知っていたのだけど、直接お姿を見て、彼こそ脳神経科学界の貴公子と思ったわ。
背筋がぴんとしていて、お話も筋道が通っていて分かりやすく、それに所作がとても美しいのよ。

その理由は、そもそも先生は学生時代に弓道をされていたからなんですって。

そのシンポジウムでは人間国宝といわれる能楽師と一緒だったのだけど、入來先生の所作の美しさは、能楽師にもひけをとらないくらい決まっていました。

その後、ある学会でお目にかかってお話をさせていただきましたが、背も高くて、微笑を絶やさず、本当に素敵。ゆったりとお話をされて、知性に溢れている方です。

それに何と言っても感激したのは、この章を読んで分かったのだけど、先生の書く文章の美しいこと!

「さあ、一緒に考えてみましょう」とか、「では、じっくりと考えてみましょう」と書いてあると、本当に先生がそばに立って指導して下さっているように思えるの。

「われわれの脳に宿る心は、これから何を創造し、どこへ向かうのでしょうか」という問いかけの文章など、とても文学的でしょ。

さて、先生の理論を私なりに大胆にまとめてみました。間違って理解しているかもしれないので、あまり深く信じないでね。

入來先生によれば、人間が知性や心を持つ存在になったのは、人間は他の動物と違って、手の位置が自分の眼から見えるところにあるというのがその理由の第一だと言うのよ。

つまり、人間は自分の手で何かを掴んだり、何かを触ったりするのが、自分の目で確認できる。

たしかに、ワニやトカゲや魚などは、手やひれはあるけれど、それがどうやって動いているかは、多分、一生涯、見て確認することができないわね。動物は目に見えない手を、ただ本能的に動かしているだけなのでしょうね。

でもネコやサルになると、自分の手の動きが分かるじゃない? そういうことが脳が発達した原因らしいの。
この章にはもっと詳しく書いてあるのだけど、すごいところに着目したと思わない?

そして手の動きが見える、ということが道具を使うことに結びつくのよね。

昔、人間の特性として「人間は言語を使うことができる」、「人間は火を使うことができる」、「人間は道具を使うことができる」ということを習ったけれど、その中でも「道具を使う」というのが人間の賢さと関係があるのね。

そしてこれから先がすごい説明だと思うのだけど、動物は「自動詞」として「動く」存在なのだけれど、人間は「他動詞」的な存在になると言うの。

他動詞と言うのは「○○をする」と言うことよね。

それまで単に「動く」とか「走る」とか「歩く」自動詞的生き物だったのに、人間は「えさ”を”取る」とか「火”を”おこす」とか「絵”を”描く」というように目的語を伴った他動詞が生まれてくると言うの。

入來先生はそういう理由から、ものを動かす主体である人間には「心」が生まれたのだ、と言うのよ。
たしかに動かそうとする意思がなければ、心も生まれないわよね。

この部分を読んだ時は、すごく感激したわ。
そうか、人間の存在の特徴は「他動詞」だったんだ、とね。

この後の説明はちょっと専門的で難しいのだけれど、手とともに、手元を見つめる「眼」にも注目しているの。
たとえば魚などは目が両方に離れているわよね。
でも進化の過程で、哺乳動物になると、眼の位置もだんだんと両目が近づいてきている。
そういう眼の位置の変化も、人間の脳の変化に関係したらしいの。

そうか、手を見つめる眼、というのが人間の知性や心と関係があったのね。

そういえば、ネコってよく自分の手をなめて、毛づくろいをするわよね。
あれもネコの脳と何か関係があるのかしら?
誰かそういう研究をしている人はいないかしらね?

ちょっと横道にそれてしまったけれど、その後は、入來先生の専門であるサルの研究の話になるのよ。
サルの脳というのは、あちこちでよく研究対象となっているのだけれど、「ミラーニューロン」というのが有名。
それはサルが相手の動作を見ていると、自分もそれと同じ気分になって、そういう神経細胞が生まれてくるという話。
つまり自分と相手は鏡を見ているように活動するというので「ミラーニューロン」と言われているの。

そういうちょっと難しい話が続くのだけど、とにかく入來先生はサルの実験をいろいろしています。
先日のシンポジウムでもそのビデオを見せていただいたけれど、サルがすごく可愛い。
サルにいろいろな道具を使わせて、その道具が自分の身体の一部のように動く、という実験をいろいろ見せてもらいました。

先生の究極の目的は、サルを実験材料として使って、サルの脳に生まれる変化から、人間の心のことを解明されたいということです。

ということが「知性の起源-未来を創る手と脳のしくみ」という章に書かれています。

生物の発生から始まって、人間の独自性を説くところは、本当に目からウロコの内容でしたわ。

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