2015年6月12日金曜日

「アラミスと呼ばれた女」

「アラミスと呼ばれた女」を読むのは実は2回目でした。


最初に読んだ時の感想は、あまり面白いものではありませんでした。
幕末から明治にかけて稀有な人生を送った一人の女性の話でしたが、あらすじを追っただけで終わってしまったようでした。
ところが、今回の印象はそれとは違って、こんなに面白い物語はないと思うほどでした。

著者は私の大好きな宇江佐真理さん。
宇江佐さんの書く時代小説は、だいたいが想像上の人物で、主人公は町人がほとんどです。
ところが今回は実在の人物、榎本武揚や勝海舟や土方歳三も登場するというお話でした。

主人公は榎本の愛人ともいうべき、お柳さんという女性。
彼女は父親の影響で子供のころから英語やフランス語ができ、そのために通詞(通訳)として幕府方の仕事につきます。
しかし当時は女性の通訳は認められていなかったので、お柳さんは髪を切り、男装をして、榎本の片腕として働きました。
その後、二人は男女の関係になり、彼女は榎本の子供を宿すことになりましたが、おおっぴらには産めないので、一人で生んで育てました。
ところが娘のお勝はやはり親の血を引いたのか、外国語の学習能力が高く、文明開化の時代に、結局は母と同じような道を選ぶことになりました。

この小説では、江戸から明治に変わる頃のことがいろいろと描かれていますが、今から150年ほど前は、日本人同士で戦いをしていたわけですね。
旧幕府方、薩長の戊辰戦争では多くの人が亡くなったと言われています。
そんな時代のことはなかなか歴史の時間では習うことはありませんが、当時は幕府方として蝦夷地で戦っていた榎本が、最後は明治政府にその能力を買われて、政府の要人として仕事をするようになったというのは不思議でしたが、黒田清隆などの懸命な説得があったからだということが分かりました。

べらんめぇで、男っぽく、そして信念のある榎本武揚のような男に惚れられたお柳さんの一生は、幸せだったと思います。榎本にはもちろん正妻も子供もいましたが、愛人の存在で一生を終えたお柳さんとの二人のつながりは、愛情だけでなく、戦いの中でともに生きてきた同士愛のようなものもあったのでしょう。

父親を薩長に殺されて、仕方なく芸者の道を選び、そして榎本と思わぬ再会ののちに、通訳として五稜郭までついて行った一人の女性。激動の時代を生きてきたお柳さんの姿が目に浮かぶようでした。

読んでいる最中、お柳さんには幸せになってもらいたいと、思いました。

また当時、かなりの数のフランス人やイギリス人などが日本にいて、西洋の技術や科学を伝達していたこいうことも、やはり忘れてはいけないことだと思いました。

つくづく明治維新というのは、人々の生活や思想を変えた大きな時代の変化だったのだろうと思います。
現代はぬるま湯のような感じすらしました。

この本のことを「宇江佐さんは町人のことだけ書いていればいいよ。こういう歴史ものに挑むことはない」というコメントを読みましたが、どうしてそういう失礼なことが言えるのでしょう。
宇江佐さん自身、この時代についてたくさん学んだこともあるでしょうし、その時代に生きた女性を小説にしてみたいという強い思いがあったからこそ、これまでは書いていなかったような内容の小説になったのだと思います。

宇江佐さんの目を通して、この時代のことが少しは分かりました。

長崎、江戸、函館を舞台にして、歴史の荒波の中を生きた女性のお話でした。
この本は、宇江佐さんの傑作の一つだと思います。





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