「大原御幸」というと、普通は平家物語を思い出しますね。
壇ノ浦で入水した後、源氏に助けられてしまった建礼門院(清盛の娘・徳子)が出家して、京都の大原に引きこもっているところに、後白河法皇が訪ねてくるというお話です。
彼女は清盛の娘で、高倉天皇の中宮であり、そして安徳天皇の母でした。この世の栄華と苦悩を一気に背負ってしまった女性です。
平家物語で語り継がれ、そして能にもなり、また多くの絵画にも描かれている女性のお話です。
ということで、平家物語に関連のある小説だと思っていましたが、実は帯の天才図案家・若松華瑶 (わかまつかよう)の人生を語った小説でした。
彼の豪華な別荘が大原三千院にあったので、「大原御幸」というタイトルにしたのでしょう。サブタイトルは「帯に生きた家族の物語」です。
語るのは彼の娘と、その娘の婿(元は野球選手)ですが、彼らが語る京言葉が、たたみかけるように流れていきます。
絢爛豪華な世界が広がります。
帯はもちろんのこと、着物、日本舞踊、歌舞伎、相撲、そして政治の世界、ありとあらゆる一流の世界が展開した物語でした。
登場人物のすごいこと。何よりも、この物語に登場するのは、ほとんど実在の人物、というのがすごいのです。
有吉佐和子、瀬戸内寂聴などの作家たち。
歌舞伎の藤間勘十郎、藤間紫、市川猿之助、坂東玉三郎。
東条英機、甘粕正彦らの政治家。
そして相撲の行事の木村庄之助。
昭和30年代から40年代の話もありますが、知っている人がたくさん登場するので、面白かったです。
そして当時の着物や日舞の世界を垣間見て、ため息が出たのでした。
宮尾登美子さんは、初代龍村平蔵をモデルにした「錦」を書きましたが、林真理子はその小説を意識されたのでしょうね。
林真理子の脂の乗り切った、濃厚な物語でした。
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「一日一句」
京語り 紅葉の錦 紡ぎけり
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