2021年1月23日土曜日

鳥越碧 「建礼門院 徳子」

建礼門院徳子は、平清盛の娘ですが、その人生はなんと悲惨なことでしょう。

父を病気で失い、その後、夫も若くして病死、多くの兄弟たちは源氏によって滅ぼされ、母と息子は壇ノ浦の海の底に沈みました。徳子は、平家一族の中で、ただ一人生き残った人です。

そんな人生、耐えられませんね。

彼女自身も海の中へ入りましたが、なんということか、源氏の熊手によって救い出されてしまったのです。

その後、出家をして、京都の寂光院で静かな人生を送りました。

ただし、この「徳子」はそれだけの物語ではありません。

彼女は夫・高倉天皇の父親である後白河法皇(つまり舅ですね)を愛していたのです。

この後白河法皇という人は、「大天狗」と呼ばれるように、時には平家の味方だったり、時には源氏方についたり、頼朝と義経の中を割いてみたり、と武家を翻弄させていた人です。

そんな憎むべき人なのに、徳子は愛してしまったのです。

つまり「許されぬ恋」なのでした。

法皇には多くの愛人がいましたが、彼も徳子には特別な気持ちを持っていたようです。

2人の間は、体の関係はなくとも、魂と魂が入り混じっていたような付き合いだったのでしょうか。

とはいえ、法皇と徳子は親子ほど年齢が離れていました。

徳子は法皇を憎みながらも愛していたのです。

この物語では、女の業の辛さが描かれていて、読んでいても辛くなってしまいました。

物語の最後には、出家した徳子の元を法皇が秘かに訪ねてくる場面で終わります。

それは能の「大原御幸」として上演されています。

私はこれまでだいぶ前に永井路子さんの「波のかたみ 清盛の妻」を読んで、二位尼・時子から見た平家物語が大好きでしたが、鳥越碧さんの「徳子」もそれに劣らない素晴らしい物語だと思いました。

ちなみに去年の12月には、同じ鳥越さんの「波枕 おりょう秘抄」▼を読みましたが、どちらの小説も、女性の心の奥深くを描いていて、読んでいて辛くなってしまうほど、厳しくて寂しい物語でした。

それにしても、この物語の元になった「平家物語」はすごい物語だなぁと思いました。

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「一日一句」

寒月や女の業の寂しさよ



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