現代を描く小説家の中で、一番すごいと思う人は、桐野夏生さんです。
彼女の小説は、どれも恐ろしいことが書かれているので、読むときは心して読まないと、おどろおどろしい世界に引きずりこまれてしまいそうになります。
それでも、先日、テレビで桐野さんのインタビュー番組を見て、久しぶりに彼女の小説を読んでみようと思いました。
図書館で借りてきたのは、こちらの「猿の見る夢」。
タイトルもなんだか妙だし、本の表紙も中世風で、どんな桐野ワールドが待っているのか、分かりませんでした。
ところが読み始めてみると、とても分かりやすい。
主人公は59歳の中年男です。
彼はアパレル会社の役員をしていて、そこそこの生活をしています。また彼には10年来の愛人がいて、彼女の部屋で酒とセックスでリラックスしてすごすことだけが現在の楽しみです。そして新しく会社に入った会長秘書にも色目を出している、いわゆるオヤジです。そして元は銀行員だったので、何事もお金で判断しているような男です。
楽しく暮らしていたのですが、ひょんなことから愛と欲の泥沼世界に足を入れてしまうことになりました。
そしてなんだか分けのわからない占い師のおばさんが自宅に泊まり込むようになって、ますます彼の頭は混乱していきます。
最後には愛人にも、長年連れ添った奥さんにも、新しい秘書にも、母親の相続で対立した実の妹にも愛想をつかされて、ウィークリーマンションで侘びしく過ごすようになります。
そして会社の出世街道にも乗れず、それどころか会社は乗っ取られそうになる始末。
そんな男の話なので、とてもわかり易い。また登場する女性たちの小気味好い話っぷりに、もっとやれやれ、とけしかけたくなります。
かなり分厚い本でしたが、あっという間に1日足らずで読み終えてしまいました。
所詮、中年男のすがるところは、金と女、なのでしょうか。
もともとは2013年から2014年にかけて、週刊現代に掲載された小説だそうです。この手の週刊誌を読む中年男を主人公にしたのでしょうね。週刊現代の愛読者たちは、きっと身につまされる思いをしながら、こっそりと読んだのかもしるません。
それで今までの桐野さんとは違った色合いの小説になったのだと思います。
さて世の中の中年男性は、みんなこんな主人公のような男ばかりでないと信じたいですが、それは甘い考えでしょうか。
ちなみに私は桐野さんの小説の中では、林芙美子をヒロインとした「ナニカアル」が一番好きです。
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「一日一句」
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