前に、瀬戸内寂聴さんの最近の小説はつまらないと書きました▼が、ちょっと訂正したい気分になりました。
たしかに新作の「爛」(2013年)はまるで面白くなくて、何回読んでも途中で飽きてしまい、結局、ブックオフに売り飛ばしてしまったというくらいです。
それに比べて、こちらの「月の輪草子」(2012年作)はわたし好みでとても面白く読めました。
「月の輪草子」をごくごく簡単にご紹介すると、これは平安時代の「枕草子」の著者で、今でいうエッセイストとでもいうべき清少納言さんが90歳まで生きて、そしてかなりぼけてしまった状態で、昔を思い出しながら、あれこれ綴るという内容です。
「月の輪草子」というタイトルは、清少納言が「月の輪庵」というところに住んでいるという設定なので、そのようになっているようです。
何が面白いかというと、やはり同じように90歳という年の寂聴さんが、どこまでほんとかウソか分からないくらい、清少納言に乗り移ったかのようにして、文章を綴っているところですね。
寂聴さんというと、「源氏物語」のイメージから、紫式部と縁が深いのですが、清少納言にもぴったりだと、改めて感じました。
おとぼけ具合がとても面白いのです。
「どうやら、私は昔、『枕草子』という本を書いたらしい。それがすごく流行ったらしいけど、ほんとにそんなこと書いたのかしら」という具合です。
「月の輪草子」に登場するのは、ご本人、彼女が仕えた中宮定子さま、彼女の一族、藤原道長、ライバルともいえる紫式部などなど。
華やかな宮中に潜む女同士の争い、関白たちの政治的な駆け引きの裏話、男女の秘密の睦言などが描かれていて、ほんとうに面白いのです。
それに加えて素晴らしいのが装幀。
誰が作ったのかと思っていたら、横尾忠則さんでした。
烏帽子をかぶった貴族、長い髪の女たち、彼らが御簾の陰でどんなことを思い、どんなことをしていたのか、と心惹かれます。
人間関係がちょっと分かりにくいのですが、後ろのページに系図が描かれているので、それを見ながら読み進めました。
もう一度、「枕草子」を読み返してみてもいいな、と思いました。
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