今日のブログは長いわよ~。
(ちょっと内容を修正しました。)

このところ脳科学のお勉強からはちょっと遠ざかっていました。
だって、脳科学よりも源氏物語のほうが、ずっと人間味があっておもしろいんですもの。
4月中旬に理研の一般公開に出かけてから、1ヶ月以上もご無沙汰していました。
でも、面白そうなセミナーがあったので、久しぶりに参加してきました。
それは日本顔学会の公開シンポジウム
「心を映す顔」。
大手町のサンケイプラザでありました。

今、脳科学者の中で、一番名前の売れている茂木健一郎先生と、赤ちゃんの研究で有名な中央大学の山口真美先生が出演されるというので、会場は満員でした。
会場には、脳科学や心理学とはまるでご縁のなさそうなおばさまたちがわんさと押しかけていたの。
だから普段のシンポジウムとはまるで雰囲気が違いました。
このおばさまたち、どんな興味でいらっしゃったのか、不思議でした。
最初は日本顔学会会長でもある東大の原島博先生という方の基調講演。
本当は工学部の教授なんだけど、ユニークな先生でした。

まずはアリストテレスのころからの人相学などの歴史を紐解いて話されたの。
16世紀のころから人相学というのが発達して、当初は「どんな動物に似ているか?」というのが注目されたそうよ。
これって、現代でもあるわよね。
「あの人はライオンに似ている」とか、「彼は犬のような顔をしている」とかね。
そのうち、顔の骨格によって、どんな性格の人間であるかという研究もされたんですって。
たとえば、細身の人だと神経質そうだとかね。
それで19世紀にはパリ骨相学会というのが設立されたのだけど、これがヒトラーなどにより悪用されたわけね。
つまり優生学的な差別に使ってしまったので、それ以来、顔に関する学問は危険視されてきて、科学者は距離を置くそうになったそうよ。顔のことを研究するのは、一種のタブーになったみたいね。
それでも平成2年に日本顔学会というのが設立されて、今では800人くらいの会員がいるんですって。
まぁ、私の学会より大規模だわ。

原島先生はそれから人間の顔と性格(心)とのことでいろいろ顔のスライドを見せながら面白いお話をして下さいました。
人間というのは、普通は衣服を着用していて、身体の部分は見られないけれど、顔というのはむき出しでしょ。
だからその顔にいろんな情報が集まるんですって。
特に強調されていたのは、顔というのは、見る人と見られる人、つまり自分と相手の関係の中にあるイメージだというの。
つまり相手の顔が良く見えてきたら(ハンサムに見えてきたとかそういうことかな)、それだけ自分と相手の関係が良くなってきたということなんですって。
うん、それって身に覚えがあるわ。
「あばたも笑窪」っていうことわざもあるしね。
そしてね、結論としては顔というのは、自分と相手の関係の中におけるコミュニケーションであるということでした。
原島先生のHPはすごく面白いわよ。
先生のいろいろな顔(変装したのもあるの)も載っています。

さて、基調講演の次は中央大学の山口真美先生。
「顔を見る心 その発達」
山口先生のご本はこれまで何冊か読んできたし、つい先日までは朝日新聞に掲載されていたので、親近感はもっていたけれど、実物を拝見したのは初めて。
くるくるヘアーで、茂木先生とはいい勝負ね。
本当はすごく難しい研究をしているのだろうけれど、今日はスライドをたくさん使って、専門用語を使わずにお話されていました。
これから赤ちゃんを産む人や、お孫さんができる人には知ってもらっていい話題よ。

生まれたばかりの赤ちゃんって、視力は0.02くらいしかないんですって。
そして月例が進んでも、あまりはっきりとは見えていないらしいわ。
そんな赤ちゃんに、物体(というかこちらの顔)をはっきりと覚えてもらうための秘訣というのは、
・顔を動かして見せる。
・真正面から見せる。
・人見知りの始まる8ヶ月までに。
ということが結論のようよ。
つまり、赤ちゃんの脳の中では、形を認識する部位と、動きを認識する部位の両方が働くことによって、モノの認識がはっきりするらしいの。動いた顔(動画)を見せたほうが、動かない顔(静止画)を見せた時よりも、覚えるスピードが3倍早いんですって。
また赤ちゃんは横顔というのは誰だかよく分からないんですって。
それと、人間の脳には顔だけに反応する「顔反応領域」というのが耳の下(それも右側)にあるので、そこにちゃんと反応させるのがいいみたいね。
また顔見知りというのは、それまでは顔の個々のパーツ(目とか口とか)でしか判断できなかったのが、顔全体として捕らえることができるようになった証拠のようなので、人見知りが起こるんですって。
そういえば、山口先生ご自身は赤ちゃんを産んだ経験があるのかどうか、ちょっと気になりました。
赤ちゃんって、どんなに長く見ていても、飽きないですものね。
山口先生のHPは
こちら。
被験者の赤ちゃんの募集もしていますよ。

お二人のお話の後には休憩時間。
このセミナーは花王の芸術・科学財団というのが主催していたのだけど、さすが、と思ったのは、この休憩時間にお茶やジュースが振舞われたのよ。そういうのってあまりないですものね。さすがにお金があるんだな、と思っちゃいました。
お金といえば、このシンポジウムの司会は、あの頼近美津子さんだったのよ。
黒縁のめがねをかけていたけれど、さすがにあの美貌と美声はそのままでした。
進行も上手だし、さすがプロだったわ。

さて、お次は茂木先生の「顔は心の鏡である」。
相変わらずエネルギッシュで、聴衆を笑わせながらのお話でした。
でも、かなり専門的な話と、世俗的な話が混在していて、どこまでみんなが分かったかどうか。
たとえば他のシンポジウムなどでもよく聞く「ミラーニューロン」の話なども、「相手の心を読み取ることができる」というような話に変化していたようで、そうなのかな、という感想もありましたけどね。
面白かったのは「平均顔」の話。世の中のいろいろな職業の人の顔を合成して、平均を出すと、たとえば銀行員タイプとか、サッカー選手のよく見慣れた顔になるのよね。あれは面白かったわ。
「平均顔」のお話は
ここの茂木先生の5月25日のブログに同じような内容が書いてあります。
明日発売の「読売ウィークリー」に掲載されるそうですよ。
それと、「たとえ世界中の人の顔を見たとしても、たったひとりだけは見られない。それが自分の顔」というのは、面白いわよね。
先月の理研でも、「あなたが普段、鏡を見て自分の顔だと思っている顔は、他人から見た顔とは違う」という説明があって、ぞっとしたのだけど、たしかにそうなのよね。
それにね、自分の顔というのは、自分の都合の良いように見ている、つまり一番きれいに見える時の顔が自分の顔だと思い込んでいるのだけれど、実はボーっとしている時や、あくびをしている時の顔も自分の顔なんだけど、それは自分だとは認めないのよね。
写真に写った集合写真の顔でも、友人の顔はたとえ変な顔をしていても、その人本人だと思うでしょ。
ところが、自分のは、変な顔をしていると、絶対に自分じゃないと思うのよね。
あとね、化粧の話も面白かったの。
これは脳の血流を測って実験をしたそうなんだけど、化粧をした時と、すっぴんの時では、脳の中で活動する部位が違うんですって。
それって、なんとなく実感できるわね。
化粧をしないときはきりっとしていないものね。(してもたいして変わらないけれど)
化粧をしている顔を見るときは、脳の中では他人を見るときと同じような活動をしているそうよ。
他にも鏡に写る自分の姿を動物はどこまで自分として認めるか、というお話(イルカやゾウは分かるそうです)や、神経経済学の話や、アイコンタクトの話とか、あれこれ話題満載で、会場の聴衆を煙に巻くように早口でお話されていました。

この後、また休憩があって、今度はパネルトーク。
会場からの質問に先生達が答えるんだけど、ひとめぼれはあるのかとか、オーラを出すにはどうしたらいいかとか、なんだかピントが外れた質問が多くて、こういう時って、講師の人って困るんだろうなとお察ししましたわ。
でもたまにはこういうお話を聞くのも刺激になるわね。知らなくても別に支障はないけれど、知っていると少しは世界が広がるのよ。
シンポジウムが終わったのは午後5時。
外に出たら、雨がザーザーでした。