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2026年4月25日土曜日

「天保図録」全巻 読了!

松本清張の超長編小説「天保図録」全4巻をようやく読み終えました。

実は私の研究テーマが天保時代の話なのですが、天保といわれても「天保の改革」という単語くらいしか思い出さなくて、あまりピンときませんでした。

そこで天保時代を描いた小説を探したところ、松本清張の本があったのです。

これは昭和39年ごろ、つまり今から60年以上も前に描かれたもので、私はまだ中学生の頃でした。

とにかく長くて、いろいろと悪いやつが登場します。そして登場人物の名前がややこしい。つまり正式な氏名で描かれるよりも、その役職で描かれているので、同一人物と気づかないことが多いのです。

たとえば天保の改革の中心人物である水野忠邦は老中であり、越前守でもありますが、文中には「水越」と描かれていると、誰が誰だか分からなくなることが多いのです。

いずれにせよ、権力欲の塊のような人です。

そして彼の子分である鳥居耀蔵というのがいるのですが、これがまた悪いヤツで、「妖怪」と呼ばれたほどでした。

登場するのはほとんどが男であり、女は添え物、という感じでした。

いずれにせよ、武士の力は低下していることを認めず、町人や農民を虐げる政策をしていたので、最期は失脚してしまい、ろくな事はありませんでした。

いやはや、大変な小説でした。

お口直しに、すっきりとする本が読みたいですね。


2023年10月1日日曜日

最近読んだ本、読んでいる本

最近読んだ本、あるいは読んでいる途中の本の覚え書です。例によって、とても偏りがあります。



絲山秋子著 「末裔」


私は現代の小説、特に女性の作家の小説はめったに読みません。なんだか肌に合わないというか。そんな中で、図書館でなんとなく手にしたこの本は、最初のページを読んだだけで、すぐに引きこまれました。

書名は《まつえい》と読みます。

一人の中年男、この人は役所勤務のどこにでもいそうな、さえないおっさんです。その彼が、次々におかしな状況に引き込まれていきます。ストーリーは、不思議な雰囲気が漂っています。どこまでがほんとうか、あるいは幻覚なのか判らない話ですが、中年男性の心理と行動が、よく描かれています。

タイトルの末裔、という言葉の意味も次第に解きほぐされていきます。ミステリーではないのに、ミステリアスなお話が続きます。

作者の絲山さんのことは、芥川賞受賞された人、くらいしか知りませんでしたが、私の好みに合いました。まだ全部読み終えていませんが。


内田宗治著「ゼンリン 住宅地図とネット地図の秘密」

これもまだ途中までです。発行が2014年と少し古いのですが、面白い内容です。

ゼンリンの住宅地図というのは、交番でおまわりさんに場所を尋ねたときに説明してくれる大きな地図です。すべての民家の名前や、ビルの名前が記載されているものです。

足で歩いて稼ぐ超アナログスタイルのゼンリンの住宅地図と、いつもお世話になっているネット地図についての裏話がたくさん書かれています。

ゼンリンという会社はもともとは別府の温泉街でお店の人向けに作ったのが最初だそうで、社名は「善輪」という字を使っていたとか。

それがだんだんとコンピュータシステムになっていく様子が描かれています。

会社の企業努力が分かり、面白いですね。なにしろすべての道を歩き、表札で名前をチェックするのですから。ほんとにアナログの世界です。


こちらは、私の定番の作家のもの。

林真理子著 「綴る女 評伝・宮尾登美子」

林真理子さんは、最近は日大理事長としてマスコミに登場していましたが、彼女はやはり文字の世界の人でしょうね。

この宮尾登美子の評伝も、数多くの縁者と会い、普通なら書きにくいことも、ズバリと書いています。さすがに作家だな、と思いました。

これをまず読んで、そして宮尾さんの「櫂」を再読したのでした。


宮尾登美子著 「櫂」

最初にこの本を読んだのは、まだ若いときでした。この本の主人公は宮尾さんのお母さんに当たる人の話です。

慣れない環境で生き、他人が生んだ子供を育て、自分の息子は若死に、夫は離れていく、そんな人生の苦しみにもがいている様子がたくさんあり、読んでいて苦しくなるような場面もありました。

それでもNHK朝ドラ「らんまん」で話されていた高知弁があちこちに散らばっているので、その苦しい気持ちも救われたようでした。

何回もドラマ化されているようですが、今の女優さんが演じても、ぴったりこないだろうと思います。


朝井まかて著 「阿蘭陀西鶴」

浅井まかてさんの本はどれも力作ぞろいで面白いですが、この本も井原西鶴のことを盲目の娘からから眺めたお話です。

だいぶ前に読んだので詳しいことは忘れましたが、盲目でも料理や裁縫も一人前。井原西鶴が生きていた時代の出版事情、彼のライバルたちの話、父と娘の交流などが、丁寧に描かれています。


最近、読むスピードが遅くなりましたね。老眼の影響でしょう。

読書専用の手元眼鏡が必要になったのかもしれません。シニアグラス、というのでしょうか。


2023年7月8日土曜日

最近読んだ本から

かなり偏向傾向がありますが、最近、読んだ本の覚え書きです。

◆内館牧子著 「十二単を着た悪魔」

ある日、突然、源氏物語の世界にトリップしてしまったダメ男と、ヒロインになれなかった弘稀殿女御の物語。読んだのは2回目でしたが、さすが内館さん、面白かったです。


◆「発酵の本」 数冊 

《やさしい》と書いてあっても、どれも内容は専門的で難しかったです。発酵の理論的な話よりも、料理などの応用を知りたかったので、ざっと読んだだけでした。


◆諸田玲子著 「かってまま」

不義の恋の末に生まれた薄幸の美少女・おさい。彼女が育つ過程には、悲しい出会いが待っていた。数奇な運命を綴る短編集。これぞ女性が書いた女性のための小説。諸田さん、大好き。


◆植松三十里著 「半鐘」江戸町奉行所吟味控

八百屋お七を下地にした捕物帳の謎解き。読んでいる最中はとてもおもしろかったが、読み終えると、あまり記憶に残らず残念。


◆植松三十里著 「家康が愛した女性たち」

徳川家康に関わった女性たちが、それぞれの生きた時代、それぞれの立場から家康の真の姿を語るもの。

祖母、母お大、最初の妻、北政所、孫の和子など7人の女声がそれぞれの立場から、家康について語りかけます。その人の立場のより、歴史上の有名人物もいろいろと見方が変わってくる、という見本のようなお話でした。


◆清水義範著 「読み違え 源氏物語」

パスティーシュの名手・清水義範の抱腹絶倒の源氏物語。ほんとうによく勉強しています。源氏物語に親しんでいる人なら、すごく面白いと思うでしょうけれど、そうでない人にはどうかな。


◆石田夏穂著 「我が友、スミス」

筋トレに励む若い女性が、ボディビル大会に出場するまでの物語。スミスというのはトレーニングマシンの名前です。

私にしては珍しい種類の小説ですが、世の中にはこういう本もあるのか、と思いました。この著者は東工大工学部を卒業しているそうで、かなり異色の作家ですね。

某ブロガーさんが読んでいたので、つられて手にしてみました。この手の現代小説はめったに読まないので、良い小説なのかどうか、判断できません。


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「一日一句」

文月や やはり女性の 本が好き

2023年6月26日月曜日

「大名倒産」と時代小説

久しぶりに映画を見てきました。

「大名倒産」です。


原作は浅田次郎、主演は「らんまん」の万太郎、と来たら見ないわけにはいきませんよね。

日曜日の朝一番での上映でしたが、他に子供向きの映画や若者向きの映画が上映されているのか、映画館は朝から満員でした。

地方で穏やかに暮らしていた若者が、急にお城の若殿様となり、江戸にやってきました。藩は莫大な借金を抱え、幕府からは借金返済ができないのなら切腹せよとのこと。それに対して若者たちが奔走する物語です。

「大名破産」には万太郎の他に、佐藤浩市、小日向文世、石橋蓮司、浅野忠信などのベテラン俳優が出演していたので、安心感がありました。他にも名前を知らない若手の俳優や、ヒロインの女の子も可愛らしかったです。

原作は未読なのでなんとも言えませんが、かなり漫画チックに映画化されているようでした。

藩の借金をなんとかするために活躍する若殿、楽しく見ることができました。

この手の映画、割と好きですね。

「超高速!参勤交代」とか、

「武士の家計簿」

などに共通する物語ですが、映画は見終わった後に楽しくすっきりするのが、良いな。

それにしても映画館の寒かったこと。しっかり着込んでいき、ストールも巻いていたのに、映画終了の頃には寒くてたまりませんでした。夏でも毛布を用意しておいてほしいですね。

話は少し飛びます。

映画の原作者浅田次郎さんは時代小説の第一人者ですが、私の大好きな時代小説作家の平岩弓枝さんが、先日、お亡くなりになりました。

そのことについて、朝日新聞のコラムに諸田玲子さんが追悼文を書いていました。諸田さんも大好きな小説家です。

私は平岩さんの詳説の中では、世間で有名な「御宿かわせみ」よりも、田沼意次のことを書いた「魚の棲む城」や、浜名湖の関所の恋愛もの「水鳥の堰」が大好きです。

時代に翻弄されながらも強く生き抜く女性の姿を見事に書いていました。

時代ものは、やはり文字でゆっくりと味わいたいですね。

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「一日一句」

若者よ たくましくあれ いつの世も

2023年3月7日火曜日

実在した人物の小説 2冊

最近、一番おもしろいと思った小説です。

二度、読み返しました。

それは山崎豊子の「花紋」

大正時代の歌壇に、彗星のごとく登場した実在の人物「御室みやじ」の美しくも儚い人生を描いた小説です。

どこまでが事実で、どこからが作者の創作なのか分かりませんが、大阪の河内長野という地域で、長年に渡り大地主として栄えた家の総領娘の物語です。

彼女は幼い頃から、周囲の人間にかしずかれて育てられ、ろうたけた美貌と類まれな和歌の才能のある女性に成長しました。そして国文学者の荻原秀玲という研究者と巡りあい、宿命の恋愛に落ちてしまいます。

そのみやじには、長年、仕えた一人の老女がいました。

和歌に興味のある一人の若い女性(山崎豊子の分身でしょうか?)が、その老女をインタビューするという形で物語は進みます。その老女の言葉遣いの美しいこと、女主人を慕う気持ちが見事に描かれています。

ヒロイン自身が優雅で高尚であることに加えて、物語の構成も非常にうまく、ミステリアスな部分もあり、どんどんとお話に引き込まれていきます。

戦前の大地主の家長制度などは、あまりに現代と違いすぎて信じられない話の展開もありますが、それ以上にみやじの魅力に取り憑かれること、うけあいです。

昭和49年(1974年)に書かれた小説です。

とてもおもしろいのに、「花紋」という題名がちょっと残念な感じがしました。

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もう一冊は、やはり実在の女性を描いたもので、諸田玲子さんの「月を吐く」。

これは今年の大河ドラマ「どうする家康」にも登場している家康の正妻・築山殿を描いたものです。

私はテレビの「家康」は、最初の1回だけ見て、有村架純というタレントが築山殿をしていたので、なんだかがっくりしてそれ以降、見ていません。

築山殿は昔から悪妻の見本ともいわれている女性ですが、こちらの小説では政略結婚させられた可哀想な女性として描かれていました。

戦国時代でも嫁・姑の問題はあったし、織田家と徳川家の関係もややこしいし、身分違いの恋愛なども織り込まれていて、現代と同じだなと思うところもありました。

そういえば植松三十里さんの「家康の母お大」は、築山殿の姑に当たる家康の母を描いたものですが、こちらはお大が非常に子煩悩に描かれています。

それにしても日本の女性は、政争の道具とされ、自分で自分の運命を決めることはできなかったとのだ、という印象を持ちました。

自分の意見をなかなか言うこともできず、意に沿わないこともたくさんあっても、家のため、夫のためには従わざるをえなかったのでしょう。

実在の人物、とくに女性を描くとなると、史料も少なく、作者の想像力がものを言います。歴史の裏側を見ることができるようで、私はそういう小説が大好きです。

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「一日一句」

春の宵 あの人たちの 愛を読む


2023年2月8日水曜日

山崎豊子の本

最近は山崎豊子の本を立て続けに読んでいます。

去年の年末、いつも借りている図書館が情報システム変更のため、長期休館となりました。その休館期間を利用して、長編ものを読んでみようと思いました。

ということで「不毛地帯」の全5巻を借りてきて、お正月から年始にかけて読み続けました。山崎さんの小説は「大地の子」や「沈まぬ太陽」などは読んでいましたが、「不毛地帯」は1巻だけで挫折していましたが、また読み返すことにしました。

最初の1巻目はシベリア抑留の話ですが、あまりに悲惨で読むのが辛くなりました。主人公の男性は、11年の抑留を経て、日本に帰国。その後は商社マンとして世界を股にかけて大活躍。こんな男は本当にいるのだろうかと思っていたら、ちゃんといたのですね。関東軍の参謀で、伊藤忠商事の社長だった瀬島龍三がモデルだったそうです。

この小説はスケールが大きくて、戦争や敗戦後の様子、そして昭和の高度成長時代を思い起こさせるには素晴らしい小説でした。経済界の話のみならず、政界の裏話もたくさん登場します。色々な裏取引についても語られていて、本当にこんなことがあったのだろうかと思いましたが、あらゆるタブーに挑戦する作者の姿勢に圧倒されました。私は商売の取引などには疎いので、理解できない部分もありましたが、非常に勉強になりました。

ただし、当時の男性はほとんどがタバコを吸っていたこと、「女は短大くらいを出て、お嫁に行くのが一番」と考えられていたことなど、あまりに現代とは異なる価値観の世界でした。またあの頃の情報伝達手段は固定電話しかなく、今の状況とはかけ離れていることは仕方ありません。それにしても重厚な内容でした。


その後は「仮装集団」という小説を読みました。これは労音がモデルと言われる音楽の団体《勤音》を扱っています。主人公の男性は単に音楽が好きなだけで、とくに政治的な意識はないのですが、団体としては共産党支持であり、その団体を潰そうと目論む経済団体との対立などが描かれています。また《勤音》というの組織中でも、中国寄り、ソ連寄りの対立があったことなども描かれています。音楽を舞台に乗せるための裏側には、こんなことがあったのかと、思い知らされることも多くありました。

発行が昭和40年なので、私は高校生になったばかりでした。あれから半世紀近く経ちましたが、現在でも音楽を興業するのは、こんなに大変なのでしょうか。


現在は「花紋」という小説を読みかけています。これは大正時代に歌壇で活躍した石上露子さんという実在の女性をモデルにしているようです。

これから宿命の恋愛話が始まるところです。



以前、山崎豊子の秘書だった野上孝子さんの本を読んだことがありますが、とにかく山崎さんの取材はすごかったようですね。足で歩いて、目で見て、確かめたことをもとに小説に仕立てていく。その過程には障害もたくさんあったようですが、パワフルで気持ちの強い方だったのだろうと思います。

私は今の作家の小説はあまり読みませんが、自分の足で歩き、命をかけて取材した小説はやはり素晴らしいと思います。

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「一日一句」

春の夜に 小説で知る 昭和かな



2022年12月31日土曜日

最近読んだ本から 2022年冬

2022年も、もうおしまい。

ということで、今年の冬に読んだ本をちょっと思い出してみることにしました。 

山崎豊子著 「不毛地帯」

かなり前に読んだ小説の読み直しです。まだ1巻と2巻しか読んでいませんが、全部で5巻あります。

シベリア抑留時代の話はあまりに惨たらしくて、読みたくありませんでした。ロシア人気質は今も変わっていないのでしょうか。戦後、商社に入ってからの話は商売の話が難しくて、なかなかついていけません。

山崎さんは本当にすごい作家だと思います。


寺田理恵子著 「四季を感じる毎朝音読」

元アナウンサーの寺田さんは、母上が認知症になったり、ご主人が急逝されたりして人生の危機に陥った時、音読を始めて脳も心も明るくなったそうです。

この本は音読のためのテキストですが、1週間に一冊ずつ読んでいくと、年間53種類もの本のさわりが読めるようになっています。毎朝、読むようにしています。


朝井まかて著 「草々不一」


さすが安定のまかてさん。時代小説の短編集です。非常に面白い。特にタイトルになっている「草々不一」は、文字の読み書きができなかった武士が、手習いを初めて読み書きができるようになって書いた手紙が泣かせます。


三浦綾子著 「青い棘」


三浦綾子さんというと「氷点」のイメージが強く、クリスチャンであり、清廉潔白な小説を書く人だと思っていましたが、この小説は若いお嫁さんと、同居している夫の父親の間にある微妙な関係が描かれていて、ちょっと意外でした。
ただし淡々としたお話で、それほど面白くはありませんでしたね。


林真理子著 「小説8050」


良くも悪くも、林真理子の小説らしくないものでした。昔のいじめを法廷で裁く話です。恋愛小説や歴史小説ではかなり充実した話をたくさん書いてきた林さんが、法廷ものに挑戦したことだけでもすごいですね。裁判の仕組みなど、よく書かれていると思いました。タイトルの8050は80歳、50歳という意味です。


池波正太郎著 「雲霧仁左衛門」


雲霧仁左衛門の一人舞台を見た後で読んでみましたが、登場人物があまりにも多すぎて、何がなんだか分からなくなり、途中で放り出してしまった小説です。池波正太郎のものは初めてでしたが、こういう小説を書く人だとは知りませんでした。


宮尾登美子著 「きのね 上下」


かなり昔に読みましたが、ちょうど今、市川團十郎白猿の襲名の時期なので読み直してみました。これは11代目について書かれています。彼の奥さんになった人の話です。ここまで書いてしまって大丈夫だったのだろうか、と思わせるすごい内容です。さすが宮尾さん、物語の展開や話術がものすごくうまいと思いました。


今年もいろいろな小説を読んできました。ほとんどが図書館で借りてきたものです。

小説以外の地理や平安時代の解説本、趣味の組紐の本などは購入して読んでいます。

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「一日一句」

寒い夜 布団で腹ばい 読書どき



2022年11月4日金曜日

「梨園の娘」「虹の橋」

小説を読む楽しみは、その物語に登場する人物にどれだけ感情移入できるか、だろうと思います。時代や場所は違っても、その人物と一緒に笑ったり怒ったり、誰かを好きになったり、どこかへ出かけた気分になれるかもしれません。

澤田ふじ子さんの「虹の橋」は、江戸時代、京都・建仁寺脇の貧しい長屋に暮らす少年少女が主人公のお話です。

以前、同じ作者の「深重の橋」という室町時代の物語を読んだ時、あまりに厳しい当時の生活に心が苦しくなったことがありましたが、今回の「虹の橋」もやはり心が締め付けられるような悲しさが漂っていました。

それでも読み進めていったのは、お話の情景が思い浮かんでくる文章が続いたからです。

貧しい少年は宮大工の修業に耐えて成長し、悲しい過去を持つ少女は錦市場の魚屋で働くことになりました。他の少年少女たちも、貧しいながらも成長していきました。

「虹の橋」を読んでいると、物語に出てくる女の子たちの髪型や着物、話しぶりなどが手に取るように伝わってきて、目の前にその女の子たちが佇んでいる様子も浮かんできました。他にも職人の修行をしている男の子たちや、長屋のおかみさんたちなど、それぞれの人の様子がよく伝わってくる物語でした。ほんとうにうまいな、と思う小説でした。

最後はちょっとありえないような結末になるのですが、それでも話の運びに無理がなく、主人公たちと一緒に悲しむことができました。

それに対して、「梨園の娘」という小説は、最初の出だしは面白いものでした。今源氏と言われるほどハンサムでかっこいい歌舞伎俳優に、男女の双子が生まれます。ところが跡継ぎとなるはずの男の子には歌舞伎にはまるで素質がなく、反対に女の子は芸達者で舞踊も優れた素質がありました。ところが《女は歌舞伎界には入れない》ということで、周囲の大人たちがこの女の子をいかに歌舞伎世界から離そうかと、策略するお話です。

ところがそのやり方がまるで絵空事であり、また女の子の顔も浮かんでこないし、華やかな世界の人がたくさん登場するのに、誰が誰だかまるで区別がつかない。年齢も性格も伝わってこない。ただ物語があれよあれよと言う間に展開するだけなのです。

これは漫画やアニメなら良いかもしれません。ところが文字だけの小説仕立てには無理があったと思うのです。

ストーリーだけは最後まで追うことはできましたが、登場人物には誰ひとりとして共感できる人はいませんでした。

私は映像や漫画の世界にはあまり興味がありません。それよりも文字だけの世界から、勝手に想像をふくらませることができる小説の世界が好みです。

ということで、これからも澤田さんの小説をたくさん読んでいきたいと思っています。

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「一日一句」

神無月 少女の想い 共にあり 


2022年8月28日日曜日

「華の碑文」〜室町時代ってなんだ?〜

最近は、この小説を読んでいました。

杉本苑子さんの「華の碑文」です。

このところ読んだ本の中で、一番読みでがあり、濃厚な内容でした。

おまけに文字の小さいことと言ったら本当に小さくて、ページが活字でぎっしりと詰まっているので、目で追うだけで大変なものでした。

このくらい、文字の大きさが違います。左は普通の文庫本です。

本の内容を簡単にまとめれば、能を大成させた世阿弥の一生の物語です。彼の弟の立場で語られています。

世阿弥は室町時代に生まれ、三代将軍義満の稚児として愛され、その後、猿楽を能に昇華させた父の観阿弥を引き継ぎ、それ以上の芸術に完成させた人です。世阿弥には三人の息子がいましたが、それぞれ優れた才能を持ちながら、仏門に入ったりして、父の能は継ぎませんでした。後継者となったのは、弟の息子、つまり世阿弥の甥でした。

その後、世阿弥は佐渡に島流しとなり、10年の年月を経て帰郷して、80歳で亡くなりました。

容姿と才能に恵まれた世阿弥でしたが、命をかけた能への思い、周囲の愛欲ドロドロの中、孤高で凄絶な人生の物語でした。

この小説についての感想をまとめるのは非常に難しく、一言で言えません。

時の将軍や大名、僧侶までが稚児遊びに明け暮れるなどあまりに強烈な場面もあり、また能を理解しないと、簡単に表現できないのです。

なにしろ作者の杉本さんが長年にわたって能を研究、調査された結果の一大作品なのですから。

それより、私は、やはりこの時代背景を知らないと、本の紹介は難しいと思いました。

特に物語の後半以降は、時の権力者である足利将軍家の移り変わりに関連した話も多く、また南北朝を理解していないと、頭が混乱してしまうことも度々ありました。

室町時代のイメージはなかなか掴めませんね。

初期の足利尊氏の頃、

義満の華やかな北山文化が栄えた頃、

義政の東山文化の栄えた頃、

応仁の乱、

戦国時代、

織田信長による室町幕府滅亡、、、。

と室町時代の簡単な流れはこんなものでしょうけれど、室町幕府そのものは1336年から1573年までのおよそ230年間という長い期間があったのです。その割にはエピソードが一定しない時代のような気がします。

将軍についても、足利尊氏、義満、義政、義昭くらいは分かりますが、それ以外にもみんな義の付く名前で、なかなか紛らわしいのです。

それでこの際、大昔に日本史の授業で習った以降、室町時代についてはなんの知識も増えていないので、ちょっと復習してみることにしました。

まずは室町幕府の歴代将軍の名前を上げてみます。

初代から尊氏、二代目は義詮、三代目は義満、これ以降は義持、義量、義教、義勝、義政、義尚、義材、義澄、義晴、義輝、義栄そして最後の15代は義昭です。

おまけに彼らは親子という直系のつながりだけでなく、兄弟だったり、一度仏門に入ったのに、また俗世間へ戻ってきたりと、ほんとにややこしい。

それら将軍が代わることに、能の流派の支持も変わるのですから、時代背景がわからないと、能の立場もどうなるか見当がつかないのです。

それくらい権力者と、能で生活している人たちの繋がりは密接でした。特に能の一家は大家族で集団で生活していることが多く、権力者の一言が彼らの生活に影響を与えていたのです。

また足利時代の文化が、現在の私達の生活に、深く影響していることはたくさんありますね。

書院造りの家に住み、美しい庭を愛でたり、能を親しむ。

足利時代の影響は脈々と続いているわけですね。

著者が小説の中で、世阿弥に「能が500年後、千年後も続くために」と言わせている場面がありますが、紆余曲折の中で、続いてきているのはえらいものだと思います。

ちなみに以前、瀬戸内寂聴さんが世阿弥について書いた「秘花」にも圧倒されましたが、今回の杉本さんの「華の碑文」はそれ以上、濃厚で衝撃的でした。

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「一日一句」

平凡な 毎日でよい 虫の声




2022年8月17日水曜日

「千姫様」 平岩弓枝著

フォークダンスはコロナでお休み、スポーツクラブは施設修理のためお休み、ということでこの夏は図書館通いです。

私は女性の作家による歴史小説(実際に生きていた人が登場する物語)が好きです。

今回、手にしたのは平岩弓枝さんの「千姫様」。

千姫は豊臣秀頼の奥方でしたが、徳川家康の孫でもあるので大坂冬の陣、夏の陣の難から逃れ、その後は徳川方として生き延びた女性です。

母のお江与の方や、伯母の淀君にも似て、美しいお姫様でしたが、秀頼が亡くなった後は本多忠刻という播磨の国の素敵な人と巡り合い、幸せな再婚をしました。

そして姫路城で暮らしていました。

かつては豊臣方に嫁いだ女性ですが、実家の大御所や実弟である将軍にも愛されていました。

ところが《秀頼はまだ生きている》という世間の噂もあり、なかなか心穏やかに過ごすことはできません。

そんな千姫のお話でした。

夫との仲睦まじい場面や、弟である家光との会話などがとても自然で、目の前にその様子や心の移り変わりが浮かんでくるようでした。

また三帆という侍女の女性を創作して、彼女の怪しさが物語のよい味付けとなっていました。

ほんとうにうまい小説だな、と思う筆使いですが、平岩弓枝さんという作家は現代小説となると、いわゆる通俗小説になってしまい、おもしろくもなんともありません。これが「御宿かわせみ」を何作も描いた人とは思えないほどです。

千姫の物語は、以前にも別の作家の話を読んでいましたが、今回は、著者の千姫にかける優しい愛情が溢れていて、気持ちのよい読後感となりました。

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「一日一句」

憧れは 戦国の世の お姫様


2022年8月13日土曜日

「竹ノ御所鞠子」 杉本苑子著

NHK大河ドラマで「鎌倉殿の13人」を見ているせいか、この時代に関連した小説を読んでみたいと思いました。

そして図書館で手にしたのが、杉本苑子さんの「竹ノ御所鞠子」です。初出は1991年ということですから、今から30年以上前の作品です。

杉本さんの著書は、紫式部の少女時代からの人生を描いた「散華」や、玉川上水を作った「玉川兄弟」の話が大好きなので、きっと面白いだろうと期待しました。

予想通りとても面白く、あっという間の半日ほどで読み終えました。

物語は、鎌倉幕府二代将軍の源頼家の娘である鞠子のお話です。

頼家には正妻の他にもたくさんの側女がいて、鞠子は木曽義仲の娘である刈藻という女性との間に生まれた女性です。そしてこのお話は、鞠子の母である刈藻の立場で描かれています。

鞠子には他には4人の兄弟がいましたが、彼らはみんな若いうちに殺されてしまいました。

ということで鞠子は源頼朝のただ一人の直系の生き残りですが、竹の御所というところで母たちとひっそりと暮らしています。

そして六郎という男性と相思相愛の末に結ばれ、子供まで生まれました。

ところが、鞠子は、尼将軍政子や、北条義時などの策略によって、四代将軍に祭り上げられた三寅という9歳の男の子と結婚させられてしまうのです。

なんということでしょう。

19歳年の差の結婚です。

そして鞠子の最期は悲劇で終わるのですが、この物語を読んでいると、北条執権政治がいかに非情で横暴なものだったかが見えてきます。

物語には他にも三浦氏や和田氏など、テレビのドラマに登場する面々も登場しますが、小説を読んでいると、彼らは陰謀や策略ばかりで、政治を行っているという意識はなく、まったくひどいものだと思いました。

また京都の上皇やお公家さんたちも似たりよったりの人たちでした。

この時代は、男子として生まれれば跡取り、女子はその跡取りを生むもの、という時代でした。

鞠子は悲しい人生を終えますが、それでもある一時期には愛する人の妻として、そして母として生きてきた幸せな時間があったので、それで少しは救われた気分になりました。

それにしても北条政子は当時としては長生きをして、最期まで権力を奮っていたようです。自分の孫でもある鞠子のことを、可愛いとは思わなかったのでしょうか?

物語には、他に創作の人物も登場させて、うまい具合に話にアクセントを付けています。

また実朝が大きな船を作る話など、エピソードもうまく取り入れています。

そして何よりも杉本苑子さんの読みやすい美しい文章が続き、一気に読ませてもらいました。

ただ読んでいると、小栗旬や山本耕史の顔がチラついてきて、ちょっと困りましたが。

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「一日一句」

台風で 部屋にこもって ページ繰る


2022年8月7日日曜日

「深重の橋」上・下

このところ暑さのため、川歩きができません。でも橋は渡ってみたい。

ということで、「橋」のつく小説を読んで、その気分を味わおうと思いました。

私の好きな時代小説家の澤田ふじ子さんの著書には、「橋」という文字の入った題名の小説がたくさんあります。

「橋五部作」というのもあるそうですが、今回は一番分厚くて、難しそうな「深重の橋(じんじゅう)の橋」を読んでみることにしました。

(上巻は、写し忘れました)

この小説は貧しく生まれた男の子が、15才のときに人買いに売られて、浴場(というか性産業のようなところ)で下働きをしながらも、文字を覚え、本を読み、そして大人になっていくところが発端です。当時は「牛」という名前で呼ばれていて、その名の通り、牛のように力強い男子でした。

彼の生きていた時代は、室町時代の北条義政将軍の頃でした。ちょうど応仁の乱の前後です。当時は飢饉、凶作、土一揆などが続き、混沌とした時代でした。

実はこの主人公の牛は実在の人で、その後、宇野周玄という扇屋の主になりました。

その彼と、愛する女性、周囲の人たちが登場するお話ですが、それだけにとどまらず、ときの室町時代の将軍、大名、武士や商人、貧しい人々など、多くの人たちが登場します。

その時代背景を理解してもらうために、著者はたびたび多くの歴史資料を提供します。そこには著者の歴史観が反映されています。それで時代背景が分かりやすくなるのですが、あまりにその量が多く、うざったい気持ちになるのは仕方ありませんね。

それでもその資料のお蔭で、応仁の乱がどのような乱であり、日本中のすべての人たちに影響をもたらしたか、ということがよく分かるのでした。

応仁の乱は、簡単にいうと将軍の跡継ぎ、大名の跡継ぎが発端になり、東西両軍が11年間にわたり日本中ドロ沼状態となり、そして下克上の時代でした。

牛の物語は、非常に悲惨で、物悲しいのですが、彼のまっすぐな性格や豪快な態度によって、ただ悲しいだけの物語に終わらず、希望の持てる展開があります。

それにしても室町時代はひどい時代でしたね。一部の政治家や大名などは優雅に暮らしていましたが、普通の人々は病に倒れてもそのままほったらかしにされ、鴨川に流されていたのです。そしてそれを鳥がついばむのでした。

ほんとうに厳しい時代の残酷な物語でしたが、たぶん、これは事実なのでしょう。 

またこの時代があったからこそ、日本の文化の多くの基礎が築かれたと思います。

とくに義政の築いた庭園文化は今も京都の各地で目にすることができます。

時代小説というと、とかく江戸時代の話が多いのですが、混沌とした室町時代の話に、非常に興味を持ちました。

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「一日一句」

立秋や 橋の向こうに 希望あり


2022年6月9日木曜日

「猿の見る夢」

現代を描く小説家の中で、一番すごいと思う人は、桐野夏生さんです。

彼女の小説は、どれも恐ろしいことが書かれているので、読むときは心して読まないと、おどろおどろしい世界に引きずりこまれてしまいそうになります。

それでも、先日、テレビで桐野さんのインタビュー番組を見て、久しぶりに彼女の小説を読んでみようと思いました。

図書館で借りてきたのは、こちらの「猿の見る夢」。

タイトルもなんだか妙だし、本の表紙も中世風で、どんな桐野ワールドが待っているのか、分かりませんでした。

ところが読み始めてみると、とても分かりやすい。

主人公は59歳の中年男です。

彼はアパレル会社の役員をしていて、そこそこの生活をしています。また彼には10年来の愛人がいて、彼女の部屋で酒とセックスでリラックスしてすごすことだけが現在の楽しみです。そして新しく会社に入った会長秘書にも色目を出している、いわゆるオヤジです。そして元は銀行員だったので、何事もお金で判断しているような男です。

楽しく暮らしていたのですが、ひょんなことから愛と欲の泥沼世界に足を入れてしまうことになりました。

そしてなんだか分けのわからない占い師のおばさんが自宅に泊まり込むようになって、ますます彼の頭は混乱していきます。

最後には愛人にも、長年連れ添った奥さんにも、新しい秘書にも、母親の相続で対立した実の妹にも愛想をつかされて、ウィークリーマンションで侘びしく過ごすようになります。

そして会社の出世街道にも乗れず、それどころか会社は乗っ取られそうになる始末。

そんな男の話なので、とてもわかり易い。また登場する女性たちの小気味好い話っぷりに、もっとやれやれ、とけしかけたくなります。

かなり分厚い本でしたが、あっという間に1日足らずで読み終えてしまいました。

所詮、中年男のすがるところは、金と女、なのでしょうか。

もともとは2013年から2014年にかけて、週刊現代に掲載された小説だそうです。この手の週刊誌を読む中年男を主人公にしたのでしょうね。週刊現代の愛読者たちは、きっと身につまされる思いをしながら、こっそりと読んだのかもしるません。

それで今までの桐野さんとは違った色合いの小説になったのだと思います。

さて世の中の中年男性は、みんなこんな主人公のような男ばかりでないと信じたいですが、それは甘い考えでしょうか。

ちなみに私は桐野さんの小説の中では、林芙美子をヒロインとした「ナニカアル」が一番好きです。

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「一日一句」

さざなみが 大波になる この社会


2022年4月12日火曜日

最近読んだ2冊の本から

最近読んだ2冊の本について、ちょっと覚え書を残しておきます。

一冊は野上彌生子さんの「秀吉と利休」。

以前から一度読んでみたいと思っていた本ですが、図書館には古い版のものしかなく、あまりに黄ばんでいて、ちょっと手にする気にならなかったのです。それが2022年(今年)1月に改版が出て、きれいな文庫本になっていたので、読む気になったというわけです。

この本が最初に出版されたのは1964年(昭和37年)だそうで、作者が77歳のときに書き上げたもののようです。その後、文庫本になりましたが、その時、作者は84歳になっていました。それだけでもすごいですね。ちなみに野上さんは百歳まで生きていらっしゃった方です。

内容は太閤秀吉と、彼の茶の道の師である利休との物語です。

どんな話であるかは、三浦綾子さんの「千利休とその妻たち」や山本兼一さんの「利休にたずねよ」を読んでいたので、内容は分かっていました。

それにしても文章が難しかった。

修飾文が5行ほど長々と続き、その後でようやく主語述語が出てくる、といった感じで、今の基準で言ったら「悪文」になるのではないか、と思うような文章でした。

それでとにかく読むのに時間がかかりました。

本のカバーには「綿密重厚な筆で描ききる」という説明がありましたが、私は難儀しました。

それでも秀吉の人間の多面性が克明に描かれ、また利休を取り巻く人達、様々な武士たちや僧侶などが登場して、なるほどそうだったのか、と歴史の裏側を面白く読みました。

ただし気になったのは、利休の架空の三男を登場させていたことです。そういう人物を生み出したのはさすが小説家の発想だと思いますが、うーん、そういう人物を狂言回しのように使うのは、ちょっと気になりました。

歴史上の物語というのは、実は誰もその場に立ち会っていないので、自由に話を構成することができるのが、小説家にとっては醍醐味なのでしょうね。

この小説を読んでへとへとになってしまったのですが、その後に手にしたのは、富山和子さんという環境評論家の「水の文化史」です。

最近、川を扱った本を読み漁っていますが、たまたま富山さんの本は名著だという批評があったので、ネットの中古本専門店で購入しました。なんと326円で送料も無料でした。安すぎますね。

この本は1980年(昭和55年)発行だそうですが、この時、作者の富山さんは47歳です。川の物語を語っていますが、とにかく文章が分かりやすくて素晴らしい。一ヶ所もひっかかることなく、まるで川の流れるように書かれています。

まだほんの出だしを読んだだけですが、シンプルで美しい文章で、そしてきちんと伝えるべき内容があります。

現在は89歳でご存命とのことですが、どんな生活をされているのか気になります。きっとお年を召しても、きっちりとした老人になられているのではないでしょうか。

どちらも昭和の時代に書かれた古い本ですが、とても気になった2冊でした。

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「一日一句」

未知の道 春の読書で 広がりぬ



2022年3月16日水曜日

最近、読んだ本

ここ一月くらいの間に読んだ本の簡単なまとめです。

私は根性がひねくれているのか、世間で評判が良い本よりも、あまり話題にならない本のほうが好みにあっているようです。

こちらの「三千円の使い方」という本は、新聞の書評欄でとても面白いと書いてあったので、買って読んでみました。

とくにあとがきで、ある女性作家が「死ぬまで本棚に置いて、何回も読み直したいほど面白い」と書いていたので、それほどすごいのかと思って買ってみました。内容は年代の違う5人の女性たちの、お金に関する話です。若い女性から子育て世代、老後の女性までが登場します。私の場合は、やはり70ウン才の老女があてはまるでしょうか。それぞれの生活が事細かく描かれていて、エッセイのように気軽に読めるのですが、死ぬまでそばに置いておきたい、というほどではありませんでした。一回読んだらそれっきり、という感じでした。すいません。

また「塞王の楯」は直木賞受賞作品ですが、受賞前から評判になっていたので、夫が買って、それを私が受賞後に読みました。

うーん、城の石垣作りの話は面白いといえば面白いですが、無名の職人が主人公なので、読んでいてその人の顔が見えてこないのです。たまに歴史上の有名人(お市の方の娘のお初さまとか、彼女の旦那さんの京極高次とか)が登場すると面白くなるのですが。それにとにかく分厚くて、出かける時に持ち歩くわけにはいかず、仕方なく夜寝る前にベッドの上で読むので、なかなか進みませんでした。あまり薄い小説も問題ですが、厚ければ良いというわけではないと思うので、もう少し削るなりして、軽い本にしてもらうと助かります。後半の決戦のところは、文章力があり、面白く読めました。

この2冊は評判になった本ですが、私としてはそれほど絶賛できませんでした。

やはり自分の感覚で選んだもののほうが、面白いですね。

以下は図書館で見つけてきた本です。

植松三十里さんの「徳川慶喜の本心」です。

これは幕末のややこしい話がよく分かるように、慶喜を主人公としてよく描かれていると思いました。幕末の話は何冊か読んでいますが、慶喜はどうもわかりにくい人でした。昨年は大河ドラマ「晴天を衝け」で草薙剛さんが演じていたので、少しは人となりが分かってきましたが、植松さんの小説はそれ以上に慶喜のことがよく描かれていて、面白いと思いました。

歴史物で言えば、房野史典さんという人の歴史エッセイ(?)は面白かったです。



この人はお笑い芸人さんだそうですが、現代風のギャグ言葉をたくみに使って、戦国時代や幕末のことを語っていました。写真はありませんが、「ドタバタ関ケ原」という本も、なかなか面白かったと思います。

春坂咲月さんという人の小説は、仕立て屋のイケメン青年が、豊富な着物の知識を総動員して、ちょっとした謎を解くお話です。

この本は、アガサ・クリスティ賞を受賞したそうですが、謎解きというよりも、着物のうんちくを語る部分のほうが多くて、着物のことを知らない人にとっては、それがどのように映るのか気になりました。

最後には、やはり安定のうまさを誇る宇江佐真理さんの時代人情小説。


何回読んでも、いいなーと思います。亡くなったのが本当に惜しい方でした。

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「一日一句」

朧月夜に やはり手に取る 時代物



2022年2月3日木曜日

篠田節子「夏の災厄」

篠田節子さんは大好きな作家さんです。

ホラー作家とか推理作家とか呼ばれていますが、どのジャンルにも属さない作家だと思います。

デビュー作である「絹の変容」を読んだ後の衝撃は忘れません。

その後、「女たちのジハード」や「長女たち」のように女性を主人公にした小説も、面白いものでした。 

今回読んだ「夏の災厄」は初出版されたのは1995年だそうですが、まるで現在のコロナ禍を事前に予想していたかのようなパンデミック小説です。

埼玉県のある町に日本脳炎のような奇病が発生しました。夏でもないのに、こんな昔の伝染病が広まるなんて。

その謎をさぐりに、市の職員や大学病院のスタッフ、町の医療関係者などがあたふたと対応しますが、謎は深まるばかりです。

この未曾有の危機にどのようにすればよいのでしょうか。

25年前に書かれた小説では、ワクチンが有効であると書かれていました。

小説にはワクチン以外にも、医師会、産業廃棄物、環境汚染、予防接種、製薬会社、など現在の環境問題、医療問題とも関わりのある言葉が登場します。

今から25年前の作品とは思えません。小説の中ではまだ携帯電話やコンピューターもそれほど普及していなくて、登場人物は公衆電話やFAXを利用していた時代です。

そんな時代背景ですが、篠田さんの凄さを感じました。

そしてちょっととぼけた様子の若い役所の男性、しっかりものの中年の看護婦さんなどの奮闘する様子が、いきいきと描かれていたのも好感が持てました。

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「一日一句」

恐ろしき 小説とはいえ パンデミック