奈良時代のお勉強の参考にと読み出した永井路子さんの「氷輪」。
とにかく難かしい本でした。ふぅ~。
これは歴史小説というよりも、永井さんの歴史観をまとめた小説形式の発表論文だと思ったほうがいいでしょうね。
その歴史観は冷静で、世間に言われている俗説(たとえば孝謙女帝と道鏡との関係など)も、通説に惑わされることなくきちんと見極めています。さすが、脱帽ものです。
じつは題名の「氷輪」とは「冷たく輝く月」という意味なんだそうです。
どうしてこのような題名になったか、私には読んだ後も分かりませんでした。
それにしても面白いのは、当時の天皇交代劇です。
天智天皇(中大兄皇子)のあとは息子の弘文天皇が引き継ぎますが、壬申の乱により天武天皇(大海人皇子)となり、そして彼の奥さんである持統天皇となる。
このあたりはまだ分かりやすいのですが、そのあとは小刻みに交代が続きます。
持統天皇から孫の若い文武天皇へ。
その彼が早死にしたので今度は彼の母親の元明天皇に遡る。
そしてその後継ぎは文武天皇の姉である独身女性の元正天皇へ。
そのまた次は文武天皇の娘である孝謙天皇へ。
そしいったん傍系の淳仁天皇という高齢者になるのですが、
また孝謙天皇が返り咲いて今度は称徳天皇と名前を変えての再登場。
その後、天智天皇系の光仁徳天皇になり、そして桓武天皇となるわけです。
100年ちょっとの間にこれだけ天皇が変わっている時代も珍しいですね。
この小説の中でも天皇が次々に交代するので、ついていけません。
それも暗殺のような交代劇があったりして、すごい時代だったのですね。
ハードボイルドも顔負けの時代でした。
また少し前の推古天皇を始めとして数人の女帝が登場したのもこの時代です。
そして藤原氏、蘇我氏の権力争いもあって、とにかく登場する人物の関係が複雑極まりない。
しかし当時の一番の中心は仏教の伝来と普及ですね。これが国家事業の第一なのです。
あの巨大な東大寺の大仏を作ることが天皇の第一目標であり、それに従事する人はどれほど大変な思いをしたことでしょう。
当時の日本の人口の半分くらいが大仏作りに従事したようで、これでは国民は疲労してしまいますね。
永井さんはこの小説では、盲目の鑑真を中心にストーリーを展開したが、これまでの鑑真像とは少し違うように思えました。
私が学校で習ってきた鑑真という人は、「数回の航海にもめげずに苦難の末に唐から来日して、日本に仏教を広め、唐招提寺を建てた人」でしたが、数回の航海という部分はあっていますが、仏教に関しては「受戒」をすることができる人という立場で来日して、聖武天皇や光明皇后に受戒をしましたが、待遇はあまり良くなかったように書いありました。
つまり鑑真が寝たり起きたりするところはとても狭い場所だったし、唐招提寺というのは当時は正式な寺としては認められず、鑑真の私的な研究所のような扱いだったようで、その作りも古い木材などを再利用して建てられたもので、今のような立派な建物になったのはかなり後のことらしいのです。
ただし永井さんの小説の対象は鑑真だけには終わらず、その後の怪僧・道鏡のことも書かれているのだけれど、彼についてはよくわからない部分も多くありました。天皇になり損ねて、結局最後は無残な死に方をしたのでした。
この小説には、天皇、政治家、坊さんなどいろいろな人物が登場しますが、このころの出来事は「続日本書紀」にもかなり詳しく書かれているそうなので、その読解方法によりいろいろと解釈ができるようです。
この本を読むに当たってはあまりに内容がごちゃごちゃしていて難しいので、私は「マンガ 日本の歴史がわかる本 古代~南北朝時代」と「人物で読む平城京の歴史」を参考にしながらようやく読み終えることができました。
いやはや何とも分かりにくい、そして登場人物の名前がややこしい時代でした。
でも、去年の9月に奈良に出かけましたが、もうちょっとこのころの歴史のことを分かっていたら、奈良に行った時も違った見方ができたと思うと非常に残念ですね。
その時は本当に表面的なことしか分かっていませんでした。
去年のブログ▼
とくに光明天皇を似せて作ったという法華寺の十一面観音は見損なってしまったし、お隣にあった海竜寺も光明皇后や藤原不比等とは縁のあるところだったそうですが、ただその前を通過して写真を撮っただけだったので、非常にもったいないことをしたと思いました。
とにかく奈良時代というのは大変な時代だったんだろうなというのが感想です。
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