2008年2月25日月曜日
読書室 3 山口さん
私が仕事をしている研究室のサーバーが壊れている。
そこのサーバーにつまらない駄文をあげているのだが、当分、陽の目を見ないだろう。というので、ちょいとこのブログに引越しをしてきた。
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◆「視覚世界の謎に迫る」脳と視覚の実験心理学 ◆
山口 真美著
2005年 講談社ブルーバックス
◆ この本を読むようになったきっかけ ◆
ある日、いつものように本屋でぶらぶらとしていた。
何か、面白そうな本はないかなと新書の棚を見ていると、うら若い女性の書いた視覚の本が目に付いた。
中をパラパラと眺めると、可愛いイラストがたくさん盛り込まれている。
これならすらすらと読みやすいのではないか。
顔の認識ということが書かれている。すぐに人の顔を忘れてしまう傾向のある私は興味があったので、買うことにした。
◆ この本の面白かったところ ◆
山口真美さんの科学的な説明によると、顔を見た量により認識が深まるという。
そりゃ当然だ。何回も飽きるほどみていれば、顔も覚えるというもの。
顔認識空間モデルというものがあり、中心に軸がある。
何回も見た顔は中心に配置されるという。
その中心に近い顔ほど認識が良くできるという。
たとえば日本人にとって日本人と韓国人の区別はつく。
顔のどこがどのように違うのかと言われてもよく説明ができないが、微妙なところで違いが分かる。
ところが我々日本人にとって、ドイツ人とスイス人の区別はつくだろうか。
イタリア人とスペイン人の区別はつくだろうか。多分できない。
日本人にはできなくても、きっとユーロの世界にいる人たちには簡単に判別できてしまうだろう。
私は以前、ナイジェリアに住んでいたのだが、周りは黒人だらけだった。
住んでしばらくのうちは、誰が誰だかまるで区別が付かなかった。
自宅には使用人がたくさんいたが、ある黒人に給料のことを説明しても、また何回も尋ねてくる。
さっき話したのにと思うとこれがまるで別の人間なのだ。
それでも数ヶ月すると黒人の区別が付くようになり、黒人の中でもハンサムな黒人、美人の黒人、そうでない黒人などが分かるようになってきた。
それは見る量が増えて、黒人が認識モデルの中のほうにきたのだろう。
またナイジェリアにはイボ族、ヨルバ族などたくさんの民族に分かれているのだが、そのうちにこの人はイボ族の人だろう、ということまで分かってくるようになった。
種族によって背の高さや顔の形に違いがあることがわかるようになってきたのだ。
つまり山口さんがいうように、学習をしたわけである。
それでも私にとって不思議なのは、ユダヤ人のことである。
ある白人がユダヤ人であるかどうかはどのようにして区別をするのだろうか。
ユダヤ人迫害というが、白人にとってはどの人がユダヤ人であるか否かは、簡単に見分けられるのだろうか。
◆ 怖い病気 ◆
顔の認識ができない欠陥を持つ人がいるという。
相貌失認という難しい言葉があるらしいが、脳卒中などで人の顔が分からなくなる障害があるという。
そのような人は、人ごみで待ち合わせをするときには、顔が分からないので、服の色で相手を判別するらしい。
反対に顔だけが分かるという障害があるという。
面白いのはトランプのカードを見せると、それがトランプだとは分からなくてもキングやクイーンなどの札を見ると、「これは顔だ」と分かるらしい。
それから馬鹿げた質問であるが、たとえば猫などはどうなのだろう。
「この猫は私のお友達の猫」、「こいつは嫌いな猫」という判断は猫同士、顔を見て判断するのだろうか。
あるいは臭いやしぐさなどで判断するのか、猫に聞いてみたいものだ。
◆ 赤ちゃんの研究 ◆
山口さんの研究で面白いのは、生まれて間もない赤ちゃんの研究を数多くしていることだ。
その中でも、赤ちゃんというのは男性と女性をどのようにして覚えるのか、という研究。
赤ちゃんは初めはお母さんの顔を見ることが多い。
つまりまず女性の顔を覚える。
そのうち、お父さんつまり男性の顔を覚える。
実験すると、赤ちゃんは12時間以上、お母さんの顔を見ると、お母さんの顔を好きになるらしい。
そこで父親がよく面倒をみる家ではどうなのか、別の実験をしてみた。
するとやはり赤ちゃんは初めにお父さん、つまり男性の顔のほうがなじみが深くなる。
つまり男性の顔から学習が始まるというのだ。
また赤ちゃんは笑った顔が好きだという。
たしかに赤ちゃんに接するときは誰でもにこにことしている。
それで怒った顔をすると驚くらしい。
ただしこの脅しも小学生くらいまで。
それ以上になると、親の怒った顔も覚えてしまうので、怒っても効果が少ないかもしれない。
赤ちゃんの研究も面白いが、もう少し年かさの幼稚園児の研究も面白い。
つまり彼らにとっては同じ人間でも帽子をかぶったり表情をかえたりするだけで、同じ人だと分からなくなるという。
それだけ人の顔を見る経験が少ないからなのだろう。
よく犯罪で子供の目撃者はどの程度、信憑性があるかという話があるが、やはり経験が少ない幼児では無理なこともあるようだ。
ところで私たちは普通、人の顔を判別するときに、前向きの顔でも横向きの顔でも、それが誰であるか分かる。
そんなことは当たり前だと思っていたが、それが結構難しいことだそうだ。
また笑っている顔でも、怒っている顔でも、それが同一人物だとすぐ分かるのも、科学的に説明するのは難しいことらしい。
◆ 山口さんの関係サイト ◆
山口真美さんのインタビューページはこちら
顔についてのインタビューが盛りだくさん。気軽に読める。
山口真美さんの研究室のページはこちら
赤ちゃんの脳の発達や、実験方法、あるいは赤ちゃん募集が分かりやすく書かれている。
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