最近、植松三十里(うえまつみどり)さんという人の本を立て続けに読んでいます。
植松さんのことは、某通販化粧品会社のカタログ冊子に歴史上の有名女性の話が掲載されていたので、お名前だけは知っていましたが、何気なく手にした一冊があまりに面白くて、次々に読ませてもらっています。
この方のプロフィールを見ると、私とほぼ同じ時代に、同じ大学で学生生活を送った人なので、なんとなく親しみが湧いてきます。
フリーライターをして、その後、時代小説を書くようになった人ですが、とにかく彼女の書く時代劇は面白くて、先を知りたくてどんどん読んでしまうので、一日に1冊は読めてしまいます。
これまで私が読んだ植松さんの本を簡単に紹介してみます。
「お江の方と春日の局」
これは今年の大河ドラマの主人公である三代将軍徳川家光の母・お江の方と、家光の乳母が対立する話。
かなり有名な話ですけれど、このパターンは何度読んでも面白いですね。
「女たちの江戸開城」 徳川家に嫁いだ皇女和宮のお付きの女官が見た江戸幕府末期の話。
この女官さんは徳川家と天皇家を取り持つために、江戸と京都を何回も往復したそうで、新幹線もない時代に、女性がこれだけ旅をしたのは珍しいでしょう。
「お龍」
言わずと知れた坂本竜馬の恋女房の話。
でもそれだけに終わらず、龍馬が死んでからのお龍さんが再婚してからの苦労話も続きます。
ただし実際にお龍さんに出会ったら、気が強くてかなり嫌な奴だったかもしれない。
幕末ものは長州藩とか薩摩藩とかが入り乱れていて、私はちょっと苦手な分野です。
「めのと」
お市の方の三人の娘を見守った乳母の話。
今テレビでお江さんをやっていますが、この小説の方がずっと面白い。
ラストは大阪城で淀君が炎に包まれて亡くなっていくシーン。
この乳母も淀君に付き添って亡くなります。
タイトルの「めのと」は誰と誰のことを指すのか、ちょっと意味深いものがあります。
「彫残二人」 
「海国兵談」の林子平と彼を慕う女彫り物師おまきさんの逃避行の話。
命がけで版木を守る男女の姿がありありと描かれていて、最高に面白かったです。読んでいて「手に汗握る」というのはこういうことなのか、と思ったほどでした。
林子平の名前だけは知っていましたが、こういう大変なことがあったとは知らず、感激しました
「千の命」 
江戸時代の産科の医者である賀川玄悦の話。
彼の家族と妊婦の話ですけれど、こんな医者が実在したのだという驚きと、ほろりとさせる話がたくさんあって、本当に素晴らしい。
子どもを産んだことのある女性なら、同感することがたくさんあると思います。
有吉佐和子さんの「華岡青洲の妻」にも匹敵する本だと思いますよ。
「達成の人」
勤勉実直で知られる二宮尊徳の若いころからの話。節約とはどういうことかがよく分かります。二宮金次郎さんは、薪を節約するためにはお鍋の底についた煤をはがし取り、その煤に水を混ぜて墨にして使ったなんて、すごい節約ですよね。そしてそのような小さなことの積み重ねで、小田原藩の経済の立て直しまでやり遂げた人でした。
こちら▼が植松さんのホームページ。
本のこともたくさん紹介されています。
今、読み始めたのは、「咸臨丸 サンフランシスコから」
勝海舟で有名な咸臨丸に乗船していた水夫の話のようです。
植松さんという方は、歴史上の有名人物を描くよりも、その脇にいて名前も記録には残らなかったような人を掘り下げて書くのがうまいですね。
それと女流作家というのは、寂聴さんや宮尾登美子などにしても女性を描くのはうまいけれど、男性像はちょっとね、という感じがするのですが、植松さんは男性の描き方がすごくうまくて、ほれぼれするような男気が感じられますね。どんな環境にあっても、虐げられても、なお自分の理想を追求する男の姿にはジーンときます。
歴史小説、あるいは時代小説というのは、動かしがたい歴史上の事実の隙間や隅っこに目をやり、その時代に生きてきた人をよみがえらせ、そして会話をさせ、恋愛をさせ、歴史に彩りを添えることのできるものだと思うのです。
作家の頭の中だけで作り上げた現代小説よりも制約があり、その中で作家の自由な発想を描いて行くのでこれほど大変なことはないと思うのですけれど、だからこそ読んでいて面白んですよね。
作家が苦労して資料を読み漁り、全国各地に取材をして書いたであろう本を、簡単に1日で読み終えてしまうのは本当に申し訳ないと思うんですけれど、でもこんなに楽しい時間を与えてくれる小説家さんには感謝の気持ちでいっぱいなのです。