「若冲」
澤田 瞳子 著
すごい本でした。
ちょっと前に、舟橋聖一の「花の生涯」上下巻▼を読んでいましたが、なんだか「早く読み終えないかな」と思っていました。
ちょっと私の当てが外れていたのです。
ところが、こちらの「若冲」はとても素晴らしくて、読書の醍醐味を感じさせるものでした。
澤田さんの本は初めてでしたが、緻密というか几帳面というか、きっちりというか、ごまかしのない文章でした。
もちろん若冲の人生を描いたものですが、フィクションの部分がすばらしい。
私は若冲の絵は割とあちこちで見てきましたが、彼の人生については彼が京都の錦市場の青物問屋の息子だったこと、早く家督を譲って、隠居しながら絵を描いていたことくらいしか知りませんでした。
その彼の人生を、妹や多くのライバルの絵師たちを周りに登場させながら、彼がどうして絵を描くかを追求していました。
特に、孫のような幼い子供を預かってからの場面が見事に描かれていたと思います。
絵の才能を伸ばしてやりたいと思う若冲と、幼い子供が共同で、あの枠のある独特の絵(白いゾウや動物たちが登場するもの)を作りだした場面には、感激しました。
何もないところから形あるものを作り出す画家もすごいけれど、それを文字で表す作家もすごいものだと思いました。
「奇想の画家」を表現しきったと思いました。
ただ、一つだけ注文をつけたいのは、澤田さんの文章は、どの章でも、最後のシーンの説明が、一行分だけ余分に感じられます。
ということで、しばらく澤田さんの本を読んでみることにしました。
「夢も定かに」
聖武天皇の時代のお話。
というので、采女とかいろいろ登場してきて、ちょっととっつきにくいのですが、内容は現代のOLと同じように、宮廷で働く若い女性たちが、仕事や恋愛に悩むお話です。
長屋王とか藤原氏一族など、歴史上の人物も登場します。
ごくごく初期の作品です。
澤田さんのご自身の趣味の世界に入っているような感じがして、興味が同じ読者には満足できるものでしょうが、ちょっと特殊な世界を描いた居ます。
「関越えの夜」
東海道浮世がたりというサブタイトルがあるように、東海道の道中で起こった出来事を、オニムバス形式で綴っています。
江戸の人の人情をうまく語っています。
澤田さんは京都生まれで同志社の文学部出身なので、さすがに京都のことに詳しいですね。
おまけに、なんと澤田ふじ子さんの娘さんなんだそうです。
それでは歴史小説がお上手なのは、当然ですね。
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