2019年6月29日土曜日

「花の生涯」上下

私は諸田玲子さんの小説「奸婦にあらず」が大好きで、同じ人物が登場する舟橋聖一の「花の生涯」を一度は読んでみたいと思っていました。

舟橋聖一という人は、今の人はあまりご存知ではないとは思いますが、昭和のころには結構、有名な小説家でした。

「花の生涯」は、昭和27年から28年にかけて毎日新聞に連載された新聞小説でかなり古い小説なので、図書館にリクエストをしていました。


またこの小説はどうして有名かというと、1963年(昭和38年)、NHK初の大河ドラマの原作となったので、大河ドラマの歴史を語る時に話題になる小説です。

当時のテレビでは、主人公の井伊直弼は尾上松緑、ヒロインの村山たかは淡島千景が演じて、直弼の懐刀ともいうべき国学者・長野主膳は佐田啓二、水戸の斉昭はなんと嵐完寿郎が演じたそうです。

私はたかの足取りを訪ねて、彦根城に行ったり▼、たかと縁のある多賀大社に行ったり▼直弼とたかのあいびきの場所だったお寺に行ったり▼直弼の墓のある豪徳寺に出かける▼ほどのファンでした。

それほど「奸婦にあらず」は美しく、毅然とした女性を描いたものでした。


「奸婦にあらず」中のでは、たかは直弼一筋に生きる一途な女性で、直弼の志を叶えるためには忍びの女として行動をしていた、と描かれていたのですが、「花の生涯」では、単に男を手玉に取る浮気な悪女のように描かれてしまっていて、残念でした。

ただ、「花の生涯」は戦後10年も経っていない時代に書かれていたので、女性の扱いに関しては、今では想像もできないほど通俗的で、なんというか品のない扱いになっています。
それは仕方がないことかもしれませんが、読んでいて納得がいきませんでした。

とはいえ、「花の生涯」の主人公、井伊直弼に関してはよく描かれていたと思います。
鎖国から開国に至るまでの彼の苦悩や、ハリスたちとの交渉の駆け引きや、尊皇派との争いなどの歴史的側面については、細かく描かれていたと思います。
また「唐人お吉」についての話もよく分かりました。
この小説は直弼が主人公なので、直弼には味方をしていますが、調子のよすぎる場面展開があったりして、読んでいて「これはないだろう」と思う個所もいくつかありました。

結局、直弼は桜田門外の変で暗殺され、長野主膳も殺されました。
たかは三条河原町で三日三晩の磔となり、生き晒となりましたが、一命はとどめて、その後は京都のお寺で尼になりました。
金福寺というお寺ですが、いつか訪れてみたいと思っています。

一人の人間にはいろいろな側面がありますが、小説として描くときには、主人公に対して愛情のある描き方をしてもらったほうが、読み手には気持ちが良いものですね。

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