紫の夏着物▼を着て出かけたのは、新橋演舞場の8月歌舞伎でした。
通常の月は昼の部、夜の部という二部制ですけれど、夏は暑さで役者さんが疲れるのを防ぐためか、1日、3回公演で11時からの部、午後2時半からの部、そして夜6時からの部となっていました。
それぞれの部は、お芝居と踊り、新作歌舞伎と怪談もの、などという組み合わせでしたが、獅童さんなどは3部ともに出演していて、出づっぱりでさぞ疲れることだろうと思いましたね。
私は11時からの部を観たのですけれど、お芝居は「花魁草(おいらんそう)」という出し物でしたが、これにはホロリとさせられました。
江戸時代の終わりに「安政の大地震」というのがあったそうで、その地震で江戸から逃げてきて河原に避難してそこで出会ったのが大部屋の役者・幸太郎(獅童)と10歳年上の女郎・お蝶(福助)さん。
偶然の出会いとはいえ、二人は栃木の百姓(勘太郎)に助けられ、その後、栃木でだるま作りをしながら暮らすことになりました。
ところがあるとき、その大部屋の役者がひょんなことから、江戸の芝居に復帰することになりました。やはり役者を続けたかったのでしょうね。
そしてそれから6年後、今では立派な役者になった幸太郎が栃木に巡業にやってきました。
役者が川の上を船に乗って、川下りをします。
見物客は橋の上から役者を眺め、えんやえんやの掛け声で声援しています。
その見物客にまぎれて、そっと彼の晴れ姿を橋の上から眺めるお蝶さん。
彼女は自分は年上でもあるし、これまで多くの男に裏切られ身も心も汚れていると思い、そっと身を引いたのですが、実は二人は純愛だったんです。
このお芝居の最初の場面では暗い河原が朝の光を浴びて徐々に明るくなっていき、そして最後の場面は川面の光が反映してきらきらと輝き、どちらも光の演出効果がとてもよく出ていて、お蝶さんの切ない気持にぴったりでした。
特に今回は東日本大震災があり、知らない土地に移転したり、知らない人と付き合うようになった人も多くいると思うので、このお芝居を見て、胸が打たれた人も多いのではないかと思いました。
福助さんってそれほど美人顔ではないのですけれど、見て行くうちにだんだんときれいに思えるようになったのは、やはり芸の力なんでしょうね。
幸太郎が栃木にいた時にそっと庭に植えたのが、この「花魁草」ですが、よく見かける花ですね。
こんなに可憐で可愛いのに、どうして花魁なんでしょう?
もう一つの出し物は、中村七之助の「櫓(やぐら)のお七」という踊りが中心のお芝居でした。
普通、「八百屋お七」というと、恋しい人に再び会いたいがために、自ら放火してしまうお七さんですが、こちらのお七さんは櫓の上に登って太鼓をたたいてご法度を破り、そして町へ出ようとします。
このシーンは「人形振り(にんぎょうぶり)」というスタイルの振り付けで、文楽人形のような操り人形に似た振りで踊るのですが、本当に人形のように美しかったですね。カクン、カクンと頭が下がったり、腕がつり上がったりするのは見事でした。
最後は大雪に見立てた紙吹雪の中で舞うのですけれど、恋にこがれた町娘の姿が印象的でした。
一つ目のお話は年増女の愛情劇、二つ目は若い娘の悲哀の踊りでしたが、どちらも情感たっぷりで、堪能できました。
今回は前から2列目の席だったので、役者さんの表情が手に取るように分かり、またお七さんは舞台から客席まで降りてくる場面もあったのですが、七之助さんのきれいな白い肌もしっかりと見てきました。
役者さんって、自分の身体を張って、お客さんに夢と幻想を与える仕事をしているんだな、とつくづく思いましたね。
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