諸田玲子さんの「犬吉」(いぬきち)。
この小説は犬好きの人にとっては、読んでいるうちにきっと涙が出てきてしまうのではないかしら。
それほど辛い、そして淋しいけれど、犬好きの人にしか分からないだろう犬との暖かい交流が描かれています。
時は元禄15年12月15日、そう、あの赤穂浪士が討入りを果たした朝のこと。
ちょうど将軍綱吉が「生類憐みの令」を出して数年たった頃の話です。
それで江戸では、生き物は人間以上に大切に扱われていて、とくに犬は綱吉が戌年生まれだったこともあり、「お犬様」として大切に扱わないと、お縄になってしまうような時代でした。
江戸から三里離れた中野村にある御囲で数万頭の犬と暮らす犬吉が、この小説の主人公です。
犬吉は、23歳のうら若き女性。
廓で生まれ、そしていろいろ辛いことがあって、この御囲まで流れついてきたの。
彼女は犬の世話をしながら、そしてそこに暮らす野郎どもに体の相手をして小銭を稼いで生きている女性なのです。
御囲では、お犬様は白米を食べ、布団の上で寝て、病気になったら薬も与えられる。
ところがその世話をするのは、雑穀を食べ、筵で眠り、流れ者の人間たち。
御囲は、掃溜めのようなところ。
脛に傷を持ち、世間では普通に暮らしていけなくなった者たちが流れ着いたところ。
そこには男もいれば女もいるから、いろんなことが起きるのは当たり前。
そんな中で暮らす犬吉だけれど、討ち入りの朝、一人の侍と知り合い、あっという間に恋に落ちてしまのです。
この小説では、犬吉の一人称で語られていて、はすっぱな言葉で語られています。
自分のことを「あたい」と呼ぶような女。
そんな彼女が身分違いのお侍に恋をして、そして彼女の周りにはたくさんの可愛そうな犬たちが登場します。
犬たちが傷つけられ殺され、そしてまた彼女も心身ともにずたずたになっていく。かなりむごたらしいシーンも展開します。
犬と犬吉を取り巻く話は少しややこしいのだけれど、面白いと感じるか、つまらないと感じるかは人それぞれだと思いました。
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私は小説のストーリーよりも、江戸時代の歴史認識ができたことが面白かったですね。
「生類憐みの令」と赤穂浪士の時代が同じとはちょっと気付かなかったわ。
元禄時代ってそういう時代だったのね。
また中野に御囲があったという歴史的事実に驚きました。
中野といえば、昔は警察学校があったところで、今はサンプラザなどが建っているけれど、江戸時代はそこは江戸ではなく、武蔵野国の中野村だったのね。そこに10万匹ものお犬様がいたとは知らなかったわ。
歴史小説を読んでいるとそういうことが分かるから楽しいわね。
4 件のコメント:
「犬吉」というから、犬の名前かと思ったら女性の名前なのね。
私は、時代小説は読んだことがないのだけど、犬の話には惹かれます。10万匹は想像がつかないけど。
今は、白石一文さんの「翼」を読んでいます。でも、このところ、本を開くと睡魔が襲ってきて(薬のせい?)なかなか進みません。
マサさん、私も最初は犬の名前かと思いましたよ。
犬は「雷光」とか「菊丸」とか「茄子丸」とかいろんな犬が登場します。
賢い犬や横暴な犬、病気の犬などいて、この辺り一帯、大変だったみたいですよ。
白石一文さんという人は親子で直木賞という人ですか。まだ読んだことがないのですが。
私は通勤以外には、寝る前が読書時間なんですけれど、やはりベッドの上だとだめね。すぐに眠くなってしまうわ。私の場合は、薬のせいでもないみたいよ。
元禄時代って、元禄文化が花開きって歴史で習った覚えがあるので・・今の平和ボケにも通じるような時代が長く続いたので、赤穂浪士の討ち入りは江戸を揺るがす大事件だったくらいの認識はあったのですが、その影でこんな哀しい物語もあったなんて・・・いつの時代も物事は光と影ですね。
中野は私は陸軍中野学校かな~。中野の駅のまわりも随分かわるようですね。
マサさんではないけど、今文芸春秋で、芥川賞受賞作「冥土めぐり」を読み出しましたが、開いては眠り、開いては眠りさっぱり進みません。テレビの前で寝ている母みたい、あ~あ。
ひょっこりさん、そうね、元禄時代って華やかなイメージがあるけれど、いつの時代も苦しんで生きている人はいるんですよね。
そうそうその陸軍中野学校が警察大学になりましたよね。今は府中に移りましたが。
中野は現在は秋葉原に次ぐおたくの聖地のようですね。
私は芥川賞は良くわからないの。
昔の人の小説ばかり読んでします。
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