最近は、ずっと三田誠広さんの一連の歴史小説を読んでいます。
頼朝、清盛と来て、こんどは「西行 月に恋する」を読みました。
これが滅法面白くて、かなり厚い本でしたが一気に読み終え、そしてもう1回読み直したほどです。
というのも、この本は物語性がかなり強くて、三田さんの創作部分が多いからです。
「清盛」はほとんど歴史資料を組み合わせたような構成でしたが、「西行」は最後の部分は争いばかりになるけれど、最初の少年・青年時代はほんとうに創作で面白かったのです。
西行は本名は佐藤義清(のりきよ)という武士でした。その彼の青春時代を綴っています。
つまりこの小説は、佐藤義清の青春恋愛小説といった感じかしら。
私は、西行のイメージというと、西行法師というお坊さんで、和歌の上手な人というくらいでした。
百人一首の絵札も、お坊さんの袈裟を着ていて、なんだか落ち着いたおじいさんというふうに思っていました。
彼の百人一首の歌が、タイトルにも使われています。
嘆けとて 月やはものを 思はする
かこち顔なる わが涙かな
これって人を恋する歌なんですね。
なんでお坊さんが恋歌を歌ったのか、疑問だったのですが、これはまだ出家前の義清のころの歌だったようです。
西行は小説によれば、かなりのイケメンで、背が高く、おまけに女性が多くいるところで育ったために女の扱いがうまかったのですよ。
美濃に生まれた西行ですが、両親はすぐに亡くなり、おじいさん・おばあさんに育てられました。
子供の時から武道はもちろんのころ、学問もしっかり身につけていたし、楽器の扱いにもすぐれ、蹴鞠もできるし、流鏑馬もうまい。
と、文武両道のいうことなしの若き武士だったのです。
それが運命のいたずらなのか、トントン拍子に白河法皇の女院・待賢門院璋子(たいけんもんいんたまこ)に仕えることとなり、女院のお気に入りになってしまうのです。
女院はそのころは37歳くらいの女盛り、西行はまだ二十歳くらいなのだけれど、彼女に恋焦がれてしまうのです。
この璋子さんという方、実は白河法皇の養女として幼い時から育てられるのですが、美貌がゆえにその父親に女として扱われてしまい、そして法皇の孫である鳥羽天皇に嫁ぐのですが、その後も白河法皇と関係を続け、産んだ子供が誰の子供か分からない、というような運命をたどる方なのです。
上の和歌も、その数奇な運命をたどった女院とのかなわぬ恋を歌ったものではないか、ということでした。
そんな西行さんってウブだけど、可愛かったのです。
でも彼はあれこれ思うことがあって出家してしまうのです。
その後、彼は璋子さんが出家するときに、大いに活躍します。
それは「結縁経」といって、ある人の出家のために、身内や味方だった人はもちろんのこと、敵対する関係だった人にもお経を写経してもらい、奉納してもらうことでした。そのお経は28種類あるそうですが、それぞれにふさわしいお経を書いてもらうように人選して、いろいろな人にお願いをするところが良かったですね。
このような行動を起こして、西行さんは女院が出家するときに捧げるんですね。
女院を思う西行さんの心がとてもよく描かれていたと思いました。
西行は女院との約束を守り続ける決心をします。
そして彼は成年になるにつれて全国あちこちを行脚するようになるのです。
法皇と天皇(崇徳院と後白河天皇)、藤原家の兄弟(忠通と頼長)、源氏の親子(為義と義朝)、平家の血縁(忠正と清盛)という身近な人たちの間で起こった争い(保元の乱)を避けるべく、敵味方関係なく訪れて、争いを起こさないように暗躍します。
しかし結果としては争いは起こり、その後、また平治の乱と続いて行きます。
意外だったのは、西行と清盛が同じ年だったということ。
またいろいろな人との交流があって、義経を奥州に連れていった金売り吉次や、義経のお母さんの常磐御前とも出会ったというふうに書かれています。
へー、そうだったの、という意外性があちこちにあって、楽しめました。
本当に面白いお話でした。
この時代の小説は争いごとが多く、登場人物が多くて分かりにくいのだけれど、これは西行の青春小説のようで、せりふが多くて読みやすいのが良かったです。
作家って、実際の歴史を土台にして、こんなふうに自由に物語を作れるのだと思うと、素晴らしいわ。
西行さんの魅力に取りつかれていますが、なんと嬉しいことに抽選に当たって、今度、西行さんのダンス劇(?)「願はくは花の下にて」を観賞できることになりました。
今からわくわくしています。
2 件のコメント:
昨晩投稿しようと思って
失敗しました。
私も母の白州正子の「西行」があったので手に取ってみました。
平泉に行ったときも句碑があったり
少し興味はありましたが・・
NHKの以前の大河ドラマでは藤木直人が
演じていました。イメージ会っているのかも?
あのドラマは崇徳天皇とか白河法皇
鳥羽院などちょっとおぞましい歴史も
知って、あながち史実と違っていない
ことを知り驚きました。
あの時代って人間同士の怨念や男女の恋愛が即政治に直結していた時代だったと思います。そんな中、どちらの勢力にも属さないお坊さんである西行が活躍したというのはすごいことだなと思いました。
西行さんはもう少しごっつい体型だったかもしれませんが、この本は若いころのお話なので、藤木直人のイメージでいいかも。
今は西行が中年になったころの「阿修羅の西行」という小説を読んでいます。
そのうち白州さんの本も読んでみたいわ。
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