まずは「浄土の帝」(2008年 角川文庫)。
さて、この帝は誰のことでしょう?
それは後白河帝です。
第77代の天皇です。
彼は大治2年(1127年) から 建久3年(1192年)まで65年間、生きていました。
当時は若くして亡くなる人が多かったので、65歳まで生き延びたということは、かなりの長命の部類に入るかもしれませんね。
この小説では、彼が天皇になった時から、平家の全盛時、清盛との蜜月時代までの前半生を描いています。
後白河帝は、元々は鳥羽天皇の4男として生まれたので、後を継ぐ予定はなかったので、好き勝手なことをして生きてきましたが、兄の急死により、天皇の位につくことになります。
そして天皇を退位した後も、34年間も院政を行い、影の実力者として生きました。
後白河帝といえば、源頼朝をして「日本国第一の大天狗」と言わしめた大変な策士としても有名です。
また「今様狂い」と呼ばれ、庶民の芸能に親しんだ型破りの帝、としても有名で、『梁塵秘抄』をつくったりして、過去の天皇の中でもかなり個性的な人でした。
それでもこの小説では、権力争いばかりで乱れてしまった世の中を、武士や貴族の力に頼ることなく、朝廷中心の理想の政治をしていきたいと強く願った人のように描かれています。
立場が変われば同じ出来事でもこうも違って見えてくるものかというのは、大変興味深かったです。
ただし後白河帝についてはなじみが薄い、といえばそれもそうですが、時には清盛や頼朝が登場したり、頼朝西行法師が登場したりして、なかなか飽きさせないように描いていました。
歴史小説というのはいろいろな立場から書かれるものですが、ほとんどが武士や貴族の男性たちが中心ですが、天皇、上皇方から見たものは少ないのではないでしょうか。
次から次へと起こる乱や陰謀、大火事を切り抜ける後白河を描く前半はなかなか迫力がありページを繰る手が止まりませんでした。
それにしても保元の乱・平治の乱は分かりにくくて、頭が混乱しそうになります。
それで同じ作者の、もう少しわかりやすい本を続けて読んでみました。
実際は、こちらのほうが先に出版されています。
「天馬、翔ける」(上・下)(2007年、新潮文庫)
ご存じ、義経の話です。
頼朝サイドからの話、義経サイドからの話が交互に語られています。
そして「浄土の帝」の後白河上皇も、こちらにも登場しています。
それにしても義経という人は、京都、平泉、鎌倉、伊豆、西国、壇ノ浦・・・と日本各地を何回も往復して、そして戦ってきたのだなと、思いました。
今のように飛行機も新幹線もない時代に、名馬に乗って、長距離を移動してきたたのはすごいものだと、改めて感心しました。
安部龍太郎という作家は、すごい眼力と視察力を持ってる人なのだろうと、思いました。
このころは武士が台頭してくる時代で、その後の日本では、武家政権が長く続くわけですが、ふと思うことは、今の世の中はいったい誰が日本を動かしているのでしょうね。
後白河帝の理想とは異なり、天皇は象徴となっています。
宗教家は、どれほどの力があるのでしょう?
政治家、財界、マスコミ、それとも一般民衆でしょうか?
あと数百年たったら、どのような世の中になるのでしょうか。
ロボットが中心の世の中になるのかしら?
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