朝鮮動乱で13人もの人を殺し、それがトラウマになって生きている一人の老人。
彼は、戦争後は、長い間、フォードの工場で働き、よきアメリカ人として生活してきたの。
でも頑固で、偏屈で、子供や孫たちからは鼻つまみ的な存在。
そんな老人の隣に引っ越してきたのが、アジア系の家族。
老人にとって、最初は、この一家は、どうにもこうにも虫の好かない存在だったのよね。
それがあることから、そこのトロい十代の息子と友好関係になるの。
この男の子は、近所の黒人たちや従兄弟たちから馬鹿にされていている弱虫だったの。
ところがこの男の子も、老人と付き合い始めて、ようやく独り立ちできて、ガールフレンドもできたの。

(隣の男の子に、工具を買ってあげるシーン。こういう生活の場がさりげなく描かれています。)
ところが、ようやく老人も男の子と一緒にいる楽しみを見つけ、男の子も生きる勇気が出てきた時、その老人は、男の子の悪い従兄弟たちに襲われて、死んでしまうの。
そんなストーリーなんだけど、この映画の底に潜むものは、アメリカの人種差別と、それに戦争体験だと思うの。
いまや人種差別は逆差別というか、白人のほうが差別されているような現象もあるのよね。黒人や黄色人種に取り囲まれている白人。そういうことが、昔の古き良きアメリカを生きてきた老人には納得がいかないのだろうと思うわ。
そんな無骨な老人役を、今年、80歳になるというクリント・イーストウッドが演じています。
それにしても、こんなかっこいいおじいさん、見たことありません。
お腹は出ていないし、頭脳は明晰だし、颯爽としているのよ。

(自宅の玄関前でビールを飲んでいるところ。日本ではこういう家の造りはあまり見ないわね。)
私は小学生の時から、クリント・イーストウッドの大ファンでした。
大昔、毎週土曜日の夜に放映されていた「ローハイド」のロディの時から、大好きだったの。
マカロニ・ウェスタンの頃の映画はあまり知らないけれど、「マディソン郡の橋」や「ミリオンダラー・ベイビー」の時も、アメリカ人らしくてでかっこ良かったわ。
それと、老人の飼っているワンちゃん、デイジーっていったかしら、すごく可愛い。

(隣のモン族の女の子。可愛らしいのに、口は悪くて、老人と対等にやりあっているの。)
この「グラン・トリノ」も、先日見た「真夏のオリオン」も、「朗読者」が映画化された「愛を読む人」にしても、共通しているのは戦争体験。いつまでたっても何年たっても、戦争の影響って、引きずるものなのね。
それにしても、この映画が彼の引退作品になるなんて、もったいないなー、と思ったわ。
まだまだ現役で活躍してもらいたいものです。