今回の広島の旅に持参した本のご紹介です。
宮尾登美子さんの本は、「クレオパトラ」以外は全部読んでいたと思い込んでいましたが、実は「きのね」はまだ読んでいなかったのでした。
ということで、「きのね」を持って、電車の中や飛行機の中やホテルのベッドで読んでいました。
貧しい家庭に生まれた主人公は、最初は歌舞伎役者のおうちに下働きの女中として勤めましたが、そのうちに、こちらの若旦那と関係ができてしまい、子供二人を生んだ後、正式に奥さんとして認められ、旦那さんの襲名披露や看病、子供の初舞台に必死に付き添いながら、一生を終えた女性です。
先代の團十郎夫人がモデルと言われています。
耐えて耐えて、忍んで忍んで・・・。
けなげな女性です。
ご主人のことを思うあまり、いつになっても「ぼっちゃま」と呼んでしまうような彼女です。
しかしそのご主人は癇癪持ちで、いつなんどき、ちゃぶ台返しがあるか分からないような人。彼女はひたすら耐えながら暮らしています。
物語の中で一番感動したのは、彼女がたったひとりでトイレで赤ちゃんを生んでしまうシーンでした。無痛分娩で子供を生んで、その痛みも知らない私には想像もできない出産シーンでした。
また戦争中、戦後の物のない時代の苦労もこまごまと綴られています。住む家をあちこちと転々としながら生きてきた様子が、描かれています。
こんな一生もあるのね、と思いました。
私にはちょっと無理な生活です。
この小説の面白いことは、歌舞伎役者の奥さんの話なので、当然のことながら、歌舞伎のお話がふんだんに出てくるところでしょう。さまざまな演目のさまざまなセリフがポンポンと出てきます。歌舞伎ファンにはたまらないことでしょう。
宮尾さんの歌舞伎に対する知識と情熱がほとばしっています。
また実話をもとにして描かれているので、昔の役者の世界がよく見えてきます。
どんどんと吸いこまれるように読ませてしまう、宮尾さんの筆の力はすごいものです。
戦前から戦中、戦後にかけての昭和の歴史がよく分かります。
ちなみにタイトルの「きのね」は歌舞伎の幕開けを知らせる拍子木の音のことです。主人公が初めて歌舞伎を見たとき、この冴えた高い音を聞いて、しびれるような感動があったので、それがタイトルにもなっています。
それにしても團十郎さんの家系はあまり身体が丈夫でないので、今の海老蔵さんは大丈夫かしら。ちょっと気になってしまいました。
2 件のコメント:
主人公の女性は、海老蔵の祖母にあたるのかしら。歌舞伎役者の奥さまは、おおかた歌舞伎界の名門の出身だと思っていたけど、そうでもないのね。
トイレで出産したのは、たまたま産気づいたのか、あるいは隠れて生まなければいけない状況だったのか、いずれにしても壮絶ですね。
宮尾さんの作品は、いつも途中で挫折してしまうの。
マサさん、宮尾さんの文体はちょっととっつきにくいところがありますね。でもこれはお話が面白いからどんどん読めてしまいました。
トイレでの出産は、妊娠したことを隠していたので、そうなったわけです。
團十郎さんの奥さんは女中さんあがり(というと差別用語となりますが)、次男の人は歌舞伎の名門の娘さん、三男の人は花柳界出身の人だったようで、それぞれ人づきあいが上手だったそうですが、この主人公はいつもひっつめ髪でお化粧もしていなかったそうです。
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