私は、ある作者の本を読むと、同じ人の本を続けて読む傾向があります。
先日、築山桂さんのこちらの本▼を読んでから、この人の本を少し続けて読んでみよう、と思いました。
内容がどうのこうの、というよりも、電車の中や夜寝る前に時間つぶし(失礼!)に読むには、それほど難解ではなく、適度に面白くて、適度にストーリーがあるからです。
そんな基準で選んだのが、「てのひら一文」でした。
サブタイトルに「若草物語」とありますが、本家が四姉妹なのに対して、こちらは三姉妹。
何ゆえ、若草物語と名付けたのか、たぶん、姉妹の物語という共通点があるからそのようにしたのでしょうが、ちょっと安直というか、「日本の若草物語」と思ったら大間違いです。
登場するのは大坂に住む親のない三姉妹。
彼女たちは、叔母がやっていた寺子屋を引き継いでいます。
長女のお香は、寺子屋では子供たちに読み書きを教えています。聡明でしっかり者。長女にはよくあるタイプですね。
次女のお涼は学問好きで、男に混じって塾に通い、難しい本を読んで、着るものなどには無関心。なんとなく「北前船」のヒロイン男装の麗人・東儀左近を思い出しますね。
末娘のお美和は食事作りや雑用をして、上の二人を助けています。けなげな町娘と言った感じです。
そんなふうにタイプの違う三姉妹が中心になって、話は進みます。
この寺子屋は普通の寺子屋とは違い、貧しくてお金のない家の子供や、昼間は親の仕事の手伝いをしていて勉強をする時間がない子どもたちのため、夜に開かれています。
費用は一文。それでタイトルが「てのひら一文」と付けられています。
この三姉妹による寺子屋を舞台として、そこには様々な人が登場します。
大工の倅であっても、勉強が好きな若者。
ちょっと訳ありの蕎麦屋の母と、その息子。
脱藩をして、大阪で人探しをしている浪人。
そして殺人事件が起こるのですが、普通の捕物帳と違うところは、たとえ人殺しがあっても、殺伐としたところがなく、どこかのどかな感じがするところです。
お美和の浪人に対する恋心も描かれていて、なんとなく連続テレビドラマ向きのような気がしました。
読んでいるうちに、自分なりにキャスティングを考えてしまうほどでした。
内容はさておき、読んでいると大坂の独特の事情というのが見えてきます。
大坂の寺子屋は江戸の寺子屋とはだいぶ違い、商売に直結することを教えていました。
また、江戸には侍がさくさんいましたが、大坂という町では侍はほとんど住んでいなくて、まさに「町人の町」というところなどがよく分かります。
また若き日の大塩平八郎が登場するのですが、彼は大坂町奉行の与力だったのですね。
それは知りませんでした。
築山さんの小説には、こんなふうに実在の人物が、ひょっこりと登場するのも面白いところです。
途中で蕎麦屋の場面が出てくるのですけれど、そのお蕎麦には大根おろしが乗っていて、それでそこの女将が福井出身だと分かる場面が書かれていました。
私は一昨年、福井県の永平寺でそのお蕎麦を食べて、おろしそばのファンとなりました。胡麻と大根おろしがどっさり乗っていておいしかったのです。
そんなことを思い出させる小説でした。
江戸の話だけが、時代小説の舞台ではない、というのが一番の感想です。
今はまた、築山さんの別の小説を読んでいます。
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