寒い日が続くので、読書と三味線、そしてお仕事という毎日です。
今日の読書感想は瀬戸内晴美さんの「京まんだら」。上下2冊組です。
そう、この本はまだ瀬戸内さんが俗世間で活躍していた時に書かれたもので、この1年か2年後に剃髪されたのです。
瀬戸内さんと言えば、私の大学の大先輩に当たる方。
これまで瀬戸内さんの著書はたくさん読んできましたが、今回の「京まんだら」は本当に内容が充実していました。
京都の祇園を舞台に、そこで生きる女将や芸妓さん、舞妓さん、そこを訪れる女性たち、そしてその恋人たちとのかかわりあいを描いた力作です。
私がこの本に惹かれたわけは、そのたくさんのヒロインたちの中で、一人の女性が私とまるで同じ名前だったからです。
このT子さん、未亡人ながら出版会社の社長としてなかなかのやり手で、京都紹介の本を出す予定なのです。
それで足しげく京都に通っているのですけれど、そこで出会う女性たちの恋話に刺激されたのか、自分の会社に勤めている若い会社員が好きになってしまい、年甲斐もなく胸キュン状態になってしまうのです。ところが彼は、この女社長の姪でやはり同じ会社に勤める律子(ま、私のいとこと同じ名前)と結婚するというので、このT子さん、発狂しそうになってしまいました。そんな女性が同姓なので、他人事ではないですよね。でも私はこのTさんのように胸に秘めるというタイプではないので、彼女の態度にはちょっとイライラしてしまいましたが。
この本には、17人も相手を次々に変えたという女将が登場したり、焼けぼっくりに火がついたような恋をした人がいたり、男を手玉に取るような人、若い人もあり、中年もあり、老年もあり、ありとあらゆる女たちが躍動する世界です。
でもね、この本は単なる恋愛小説ではないのです。
それはタイトルからも分かるように、ある種の京都の案内本でもあるのです。京都の様子をまんだらのように織り込みながら紹介しています。
彼女たちがたどる清水寺や高山寺のあたり、夏の鴨川の床、雪の小路、嵯峨野や詩仙堂の紅葉、葵祭りや大文字送り火などの行事が丁寧に描かれていて、読んでいるだけで京都に足を踏み入れたような気分になり、すぐれたガイド本になっています。
とくに素晴らしい描写だと思ったのは、泉涌寺の情景でした。あそこは山門を入ると、本堂は下のほうにある不思議なお寺なのですが、それを「本当に素敵に表現していました。
京都ならではの風習のお勉強にもなります。
五山の送り火を見るときは、お猪口にお酒を入れて、その燃える火をお酒に写して、その字を飲み込むといいことがあるとか。へー、私もいつかそういうことをやってみたいと思いました。
そしてたくさんの京ことば。はんなりしていて、それでいて伝えたいことはきちんと伝えてしまう京ことば。
読んでいて、その言葉がどこからとなく聞こえてくるようで、本当に京都の町を歩いているような気分になりました。
でも、電車の中で読むにはちょっと恥ずかしい部分もある扇情的な本でした。いろんな性の技も教えてもらえるのですから。
これは日本経済新聞に掲載されたものだそうですけれど、世の中のお父さんたち、この小説を読んで少しは女性の気持ちに近づけたかしら?
この中で、随筆家の恭子さんという中年女性が登場するのですが、彼女は以前は男性との間にいろいろあったようですが、ある時から髪を剃って仏門に入りたいという気持ちを持つようになりました。きっとこの人は瀬戸内さんの分身なのでしょうね。
本の後ろの解説の部分に、「この本は、瀬戸内さんにとって《源氏物語だ》」と書いてありました。光源氏は登場しませんけれど、多くの女性の愛の喜びと悲しみを綴ってあり、まさに現代の源氏物語と思われるそんな本でした。
8 件のコメント:
作品の中のヒロインが自分と同じ名前というのは、興味深いですね。私はダサイ名前だから、そんな経験をしたことがないの。
瀬戸内晴美の小説では、「まどう」が好きだった。タイトルは忘れたけど、新聞に掲載されていて、毎日楽しみにしていた連載小説もあったわ。
日経新聞に掲載されて、電車の中で読むのはちょっと恥ずかしい小説といえば、渡辺淳一の「失楽園」がありますね。
財界人もけっこう読んでいたらしいですよ。日経ですから。
私の名前は、結構、嫌な女の役の名前によくあるんですよ。少女小説でもそうだったわ。そういえば、マサさんという女性の小説って読んだことないですね。
そうそう、あの失楽園も日経新聞ですよね。
おじ様たち、意外とこういうので女性心理を学ぶのかもしれないわね。
えっ?としちゃんの名前って嫌な女の役の名によくあるんですか? そんなこというと益々知りたいじゃありませんか(笑)
瀬戸内寂聴さんのモノって比較的長編が多くないですか。京まんだらもこの厚さにまけて読んでないですが・・・一読の価値は十分あるのですね。「かの子繚乱」も長いんですよね。
私の本棚にはあの文壇に物議をかもしだした「花芯」と「蜜と毒」があります。
この先生には「躊躇」という言葉がありませんよね。う~む。
京まんだら、お薦めですか。ブックオフに行ってみますぅ。
ひょっこりさん、そうなのよ、私の名前って、少女マンガなどではヒロインにはなれない端役なんだけど、だいたいにおいて意地悪で嫌な役が多いのよ。
私は長編小説大好きなの。大河ものというか、女の一生のような歴史もの、だいすきです。特に宮尾登美子がいいですね。
ところでひょっこりさんの本名は知らなかったわ。ひよ子さん、のわけないわよね。
京まんだらは、女性は魅力的な人が多いけれど、これ、テレビ化されていて、岡田茉莉子が出たそうよ。
としちゃん
「瀬戸内晴美」さんの小説は若い頃
苦手でほとんど読んだことないのよ。
何だか恥ずかしくて読む気になれな
かったわ。
源氏物語を読んだのが初めてでした。
宮尾登美子さん、大原富枝さんは女性の
小説家としては比較的好きです。
でも、「櫂」「蔵」のように耐えて忍ぶ
か弱くて芯の強い女性は苦手。
どちらかと言えば、ロマンロラン「魅せられたる魂」の
アンネットのように「私は私」と
自己主張する強い女性に惹かれるわ。
そういう意味では瀬戸内さんの小説に
出てくる奔放な女性たちの方が、
今なら惹かれるかも。
などと言いながら、櫂に出てくる
ヤマモモの生食がしたくて庭に植樹。
今では毎年やまもも酒を作ったり
生食しています。
私はやっぱり色気より食い気だわ。笑
真蘭さん、ヤマモモを育てているんですか。「櫂」の最初のシーンに出てきますよね。
どんな味がするのかしら。
瀬戸内さんの小説も多分、若い時と今では違った読み方になっていると思います。源氏物語をあれだけ魅力的に訳したというのは、やはりすごい方だと思いますね。
「魅せられたる魂」は読んだことありませんけれど、こんど、挑戦してみますね。
やまものの味は、ちょっと甘酸っぱいわ。
今年の6月、生ったらご賞味ください。
「魅せられたる魂」に出会ったのは
学生の頃でした。将来のことを考えて
いた時に、自立する女性を100年前に
書いた男性がいると衝撃的でした。
それから何度か人生の節目で読んでいますが
その度に新しい発見があります。
ちょっと、長編ですが是非読んでみてください。
真蘭さん、魅せられたる魂の紹介ありがとうございました。女性の自立の話なの? タイトルしか知りませんでしたけれど。そうですか、何回も読んでいらっしゃるのですね。西洋の小説ってほとんど知らないんですけれど、私も読んでみますね。
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