そしてこのあたりは多くの問屋さんが並んでいるところです。
その蔵前に、かつて「増孝商店」という玩具問屋さんがあったそうです。
その問屋さんのお孫さんが、おじいさまやおとうさまの仕事場であった蔵前で、染織の展示会を開催されました。
それが年に数回、開かれる「蔵前の夏場所」なのです。
お孫さんは郡上八幡にある染織の学校で学び、そこで奥様と出会い、その後20数年間、お二人で作品を作り上げていらっしゃいます。
蔵前の夏場所では、お二人の作り手の心が伝わってくるような反物、帯用の反物などが展示されていました。
お孫さんである染織家iwasakiさんは、いつもは山梨県南巨摩郡という富士山のすぐ近くにお住まいで、そこを仕事場とされています。
それまでは千葉の方にお住まいでしたが、大きなはたおり機を置ける広い作業場を求めて、山梨へ転居されたそうです。
とても息の合ったカップルのようにお見受けしました。
奥様の単衣着物はとても色合いも手触りも良く、また長いシーズン着られて、お手入れも楽にできるのだとか。
iwasakiさんは、はたおりのことを素人にも分かりやすく、いろいろとお話してくださいました。
使用する糸は最初はこういう帽子のような形をしているそうです。
緑に染められて、まるでキャベツみたいね。
ちょっと持ってみましたが、ふわふわでとても軽くて、綿菓子のようでした。
そしてこの丸い回転する道具で糸をくるくると紡ぎます。
これは沖縄の久米島に伝わっている道具だとか。
そしてそれをはたおり機にかけて(この手順が時間がかかり大変なようです)、縦横の糸を織っていきます。
言葉で書くと簡単そうですが、集中力と持続力と根気が必要な作業だと思いました。
「夏場所」には、はたおり機が2台設置されていました。
1台は京都の西陣で使われていたもの、そしてこちらは東京の八王子で使われていたものだそうです。
それを修理して使っているそうです。
はたおりに使用する道具は、ほとんどが天然の材料でできていて、それを手作業で行うのだそうです。電気仕掛けの道具とはご縁がないようです。
今ははたおりに使う道具の部品が少なくなってしまっているそうです。
こちらの細長い道具の真ん中にある白い部分も、作り手がいなくなりそうだとか。
織られた布は、商品として売る前に、まず奥様が実際に着てみることが多いそうです。
そして着心地はどうか、生地が透けすぎないか、縫い目がほどけにくいか、などを確かめて、試行錯誤しながら、新しい生地を提供されていらっしゃいます。
こちらは山梨のご近所の陶芸作家さんが作られた湯呑茶碗。
シンプルですが、モダンでオシャレですね。
お手製の匂い袋のおみやげもいただいてしまいました。ありがとうございます。
これは、試し織りに使用した部分で作っているそうです。
蚕から紡ぎ、時間をかけて織った布を捨ててしまわずに、最後まで大切にされている気持ちが伝わってきます。
iwasakiさんには、素敵なものを見せていただいき、作り手の思いを聞かせていただくことができ、とても穏やかな時間が過ごせました。
染織iwasaki▼
こちらは増孝商店の向かいにある神社です。
蝉しぐれが聞こえていました。
今回の夏場所は、帯作りが趣味のSさんのご紹介でご一緒しました。ありがとうございました。
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この日の装い。
暑い日だったので、薄物の着物と帯。
帯は西荻窪のリサイクル着物屋さんにて購入。