幕末から明治維新までにかけての時代小説は、話がこんがらがっている上に、登場人物の立場によっていろいろな見方があるので、なかなか難しいものです。
でも清水義範さんのこの本は、大胆な手法によって、おもしろく構成されています。
それは、アナトール・シオンという美しいフランス人男性を登場させて、彼があたかも幕末の江戸や京に実在したかのように、歴史を再構築させているからです。
そして実在していた吉田松陰、徳川慶喜、明治天皇、勝海舟、坂本龍馬、近藤勇、ジョン万次郎などの有名人物とうまく絡み合わせて、面白い日本史を作ることに成功しました。
最後には、何と日本に大統領が誕生してしまうという始末。
パロディにしてもあまりにも大胆すぎて、あっと驚くシーンが展開します。
「半蔵門の変」とか「山田屋事件」というのを読んでいると、ほんとうにそういう事件があったのではないか、と思ってしまうほどです。
新撰組が斬新組に、蛤御門の変が半蔵門の変、池田屋事件は山田屋事件にというように名前を変えてあるのですが、どこまでが史実でどこからが小説なのか分からないほど。
架空の話だと分かっていても、本当はこんな事件があったのかもしれない、という気持ちにもなってしまいます。
さて、シオンは初めはオランダ人だと名乗っていましたが、そのうちにフランス人であることを明かします。
それでも着流しにスタイルに、腰には刀を付け、そして鞍馬天狗のような頭巾をかぶって、あちこちに登場してきます。
史実と創作が虚実入り乱れた小説ですが、本当に面白く、改めて実際の歴史をたどってみようという気になりました。
実はこの小説は、ずっと以前にも途中まで読んでいたのですが、なんだかおもしろく感じられなくて、途中で投げ出してしまっていました。
今回は最後まで楽しく読めたのは、私の中の何かが変わったからでしょうか?
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