去年は、「食と脳」というテーマ▼でしたが、今回のテーマは「色と脳」でした。
今回は午前中しか参加することができませんでしたが、聞いた講義だけ、ちょっとまとめてみます。
ちなみに参加できなかった午後の部は、以下の講演がありました。
脳を守る 「失われた空間」 石合純夫先生(札幌医大教授)
脳を育む 「iPS細胞による網膜再生医療」高橋政代先生(理研)
脳を創る 「人間と機械の質感認識」西田眞也先生(NTT科学基礎研究所)
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最初は特別講演で、京都で江戸時代から続く染屋「染司よしおか」五代目当主・吉岡幸雄さんのお話でした。
(吉岡さんは著名な方なので、もっとよくご存じの方が多いと思いますが、直接お話を聞いた者として、少しだけまとめてみましたので、ご了承下さい。)
吉岡さんは大学卒業後は美術出版のお仕事をされていましたが、その後、生家である染物屋を継ぎました。
日本伝統の天然素材を使った染色と、そして染色の歴史に深い知識と見識をお持ちで、著書もたくさん出されている方です。
そのような講演があるので、会場のロビーには、染色された美しい絹糸が展示されていました。
吉岡さんは最初に、ご自身は「色」の専門家ではなく、「彩」の専門家である、と言って笑わせました。
「色」というと、本来は男女の道を指すのですが、「彩」は木や草や花のもつ色を表す、ということでした。
吉岡さんはその植物染めをされています。
いろいろな植物から染められた絹糸は、見事な光沢で、ほんとうに美しい色でした。
写真の真ん中の列には、その材料となる植物が置かれていましたが、このような木や葉から、色がつくことを見つけたのは、大昔の人の知恵ですね。
染の起源は、大昔、類人猿がサルに進化したころ、顔に赤いものを塗っていた、という証拠があるということでした。
それは化粧して美しくなるため、というよりも威嚇のために赤く塗られていたそうですが、原始時代から「赤」は特別な色とされていたそうです。
またエジプトでも、紅花を使った口紅を使っていたという歴史があったそうです。
日本では、縄文時代から土器に赤い色を使っていたことも分かっているそうです。
その後、古墳時代になると、死者を再生させたいという希望のために、古墳の内側に赤い色を塗ることもありました。
吉岡さんによると、「赤」はすべての色の原点ではないかということでした。
それは太陽が地平線から上がる瞬間の色であり、「アガル」が「アカ」になったのでは、というお話もありました。
また血の色である赤は、人間の脳を刺激する色ではないか、というお話でした。
(蘇芳の赤)
(日本茜の赤)
その後は、たくさんのスライドを見せていただきながら、色についてのお話が進みました。
まず最初は縄文式土器を見せていただきました。
これには赤と黒が塗られていましたが、赤は鉄のさびから、黒は焚火の墨を利用していたそうです。
弥生時代の土器は、はにわの眼のあたりが、赤く塗られていたそうです。
卑弥呼の時代には、朱と丹の赤が使用されていた、と「魏志倭人伝」に書かれているのだとか。
飛鳥時代にはさまざまな色が藤樹しますが、正倉院には数多くの茜色のものが保存されているそうです。
(紫根の紫)
その後、平安時代、鎌倉時代、戦国時代にも、人々の衣装には「赤」が使われてきました。
上杉謙信、家康の衣装なども、男性のものとは思えないほど、美しいものでした。
(蓼藍の青)
吉岡さんは、日本の色というと、「わび」とか「さび」のようにくすんだ色を想像されることがあるが、本来の日本の色はもっと鮮やかな色だった、と指摘されました。
(刈安の黄色)
昔のものを修復する際に、化学染料で修復すると、それは発色がよくて美しい色になります、それ以前に植物で染めた色の方が退色がなくて、持ちがよいそうです。
吉岡さんのお話は、染色の歴史がよく分かり、興味深いものでした。
「源氏物語千年紀展」▼の時も、源氏物語の色を再現されました。
私もそのイベントには足を運びましたので、どこかで吉岡さんの展示を拝見させていただいたことだと思います。
その後、図書館で吉岡さんの著書を借りて読んでいます。
その中で、紙についても書かれていますが、たとえば和紙に書かれた文字は千年ももつのに、今の印刷物はいつまで持つのだろう、ということもありました。
便利になって大量生産できることと、不便でも長持ちすること、それは私たちが選択しなければならないのかもしれませんね。
吉岡さんは訥々とした表情でお話されて、ちょっと頑固職人気質という感じの方でした。
ご自身で染められたと思われる藍のシャツを着ていらっしゃいました。
今の若い世代には、言いたいことをたくさんお持ちのようにお見受けしました。
会場には、脳科学とはちょっと無縁のような、吉岡ファンの着物姿の方もいらっしゃり、目の保養をさせていただきました。
私は着物で参加できずに残念でした。
(次の講演の藤田一郎先生のお話は、また別にアップします)
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