2021年8月10日火曜日

「涙堂 琴女癸酉日記」

昨日は台風の影響でしょうか、ものすごい強風が吹きまくったので、外には出ずに、ずっと家で本を読んでいました。久しぶりに宇江佐真理さんの小説を読みました。

「涙堂 琴女癸酉日記(なみだどう ことじょ きゆうにっき)」です。

涙堂というのは仮想の場所ですが、私は湖に浮かぶ東屋のようなところを勝手に想像しています。そこは小さなお堂があり、何かが祀ってあるようなところのようかもしれません。

琴女というのは、琴という名前の女性のことです。かつてはお武家様の奥様でしたが、色々と事情があり、現在は町人の住む町で、5人いる子供の中で、末っ子の息子と一緒に暮らしています。

その彼女が癸酉の年(1831年?)につれづれと書いた日記というか覚え書きのような文章が、小説のタイトルとなっています。

宇江佐さんといえば、市井の人の暮らしを丁寧に描くのが上手な小説家でしたが、惜しいことに数年前にがんでお亡くなりになりました。

私は彼女の小説は全て読んでいましたが、同年ということもあり、彼女の死があまりにショックで、その後はもう読みたいとは思いませんでした。

それでもようやく最近、もう一度読み返してみようと思って手にしたのが、この琴女日記です。

琴女は北町奉行同心をしていた夫が何者かに殺されてしまい、その後は八丁堀での暮らしを断念して、絵師である末っ子と大伝馬町で暮らすようになりました。当時は職業によって、住む地域もほぼ決まっていたのですね。

彼女の周囲には、幼馴染みの医師や、夫の手下だった汁粉屋の亭主、紙問屋の主人など、多くの人が登場して、中年女性の暮らしを様々な形で支えてくれます。

また夫の死を不審に思い、息子たちはその理由を追求するという探偵ものの要素もあります。

この物語は「小説現代」2000年の8月号から2001年11月号までに書かれた短編6作を合わせたものです。

今から20年ほど前に書かれましたが、それぞれの短編の中に登場する当時の流行り廃りや家族の争いごとなどが、町家での暮し、お役人の暮らしを背景にして、うまく配置されていて、さすがは宇江佐さん、と思いながら読みました。


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一日一句

冷房強 日がな一日 読書かな


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