2021年11月16日火曜日

「東京 のぼる坂 くだる坂」

先日、たまたまスイッチを入れたテレビの番組で、東京の坂についての本を出した人のインタビューがありました。

その本の著者・ほしおさなえさんという方が、テレビのアナウンサーと一緒に坂を歩いていたので、私はてっきり坂のガイドブックだと思ってしまいました。

私は川歩きが好きなのですが、歩いていると、当然、坂のある場所も通過するので、そういう本があれば役に立つかと思い、本のタイトルだけをたよりに、あまり深く考えずに、ネットでその本を注文しました。

本が届いてみると、それは坂のガイドブックではなかったのです。

何かというと、坂に関する小説でした。

なーんだと思いながら、本を開いてみました。すると少し読んだだけで、とてもユニークな坂に関する物語だと分かりました。

物語は、独身のアラフォーの女性が主人公です。彼女のお父さんはもうすでに亡くなっているのですが、坂のあるところに住むのが趣味の人で、都内の坂のある場所を転居し続けました。そして彼女は、お父さんが残した坂の名前の記録をもとに、坂巡りを始めたのでした。

主人公が辿った坂はすべて東京に実在する坂で、私が歩いた坂も何箇所かありました。

父が子供の頃に住んでいた近くの坂だったり、伯母が住んでいた場所の坂だったり、仕事で出かけた場所だったりと、懐かしい坂がありました。

そしてこの本の中には、その坂の周囲の地図がとても丁寧に描かれているのです。作家の手描きかもしれません。

また坂の話も面白いのですが、この作家の気取らない文章が、よいのです。難しい言葉は使わなくても、胸にしみてくる文章がよいのです。

映画になったら面白いかも、とも思いましたが、こんな素敵なお話は映像化しないで、それぞれの胸の中に密かに置いていたほうが良いかもしれないと思いました。

どの坂の話から読み出しても、一つの読み切りのお話となっています。エッセイのような小説のような、坂が好きになる本でした。

*******

一日一句

暮早し あとはベッドで 本を読む


0 件のコメント: