2018年11月21日水曜日

三味線を超えた音楽の世界

私は、たまたま家に古い三味線があったという理由だけで、還暦を過ぎてから三味線を手にしたおばさんで、邦楽についての技術も教養も、まるで持ち合わせがありません。
どちらかというと老化防止のためにお稽古をしているような人間です。
ですから、今日のブログも、そんなことを念頭に入れて、お読みいただければと思います。

さて、昨日は紀尾井町小ホールで、私の三味線の先生の、そのまた先生である今藤政太郎先生の作品演奏会を聞いてきました。


先生は、長年、長唄の世界に貢献されたということで人間国宝に認定された方です。
現在は演奏活動からは身を引いていらっしゃいますが、多くのお弟子さんたちの演奏を聞かせていただきました。

ところで紀尾井町ホールといえば、先月の「江戸を歩く」の講座でも通ったところですね。
その時の紀尾井町ホール周辺のブログ▼

今回は夜だったので、四谷の駅もこんな感じでした。
「あの時はよく歩いたな」と感慨が湧いてきましたよ。


ニューオータニもライトアップされて、美しい夜景でした。


さて、今藤政太郎先生の作品集、ということでしたが、曲名を見たときは、まるで馴染みのない曲ばかりでした。
ところが実際に聞いてみると、ものすごく広範な世界の曲がぎっしりと集まっていて、素晴らしいものでした。


最初は「鵺(ぬえ)」という源頼政のお話でした。
ちなみに頼政という人は、以仁王と一緒に平家打倒に活躍した武士だそうですが、和歌に秀でていた方で、土蜘蛛退治で有名な源頼光の子孫なんだそうです。その人の鵺退治のお話を曲にしたものですが、真っ暗闇の世界で弾かれた三味線の音に、なんとも不思議な異空間に引き込まれました。

次は「江戸麑子男道成寺(えどがのこおとこどうじょうじ)」という曲で、これは「娘道成寺」のパロディ版というか、割と長唄っぽい曲でした。

休憩の後は、「小品歌曲集」というのがありました。
女性のお弟子さんたちの澄んだ歌声や、不思議な楽器(積み木を繋いだような木片の楽器など)演奏もあり、楽しめました。
中でも「願人坊」という曲は、北原白秋の詩をテーマにしているそうで、なんとも面白い曲でした。
それ以外にも、政太郎先生が絵葉書を見て思いついて作曲したという曲や、佐藤春夫(谷崎潤一郎との三角関係)の詩を元にした曲などもあり、長唄三味線のジャンルを超えたものばかりで、えー、そういうものでも三味線の曲にしてしまうのか、という驚きがありました。

最後は「船渡聟」といって、元々は狂言だったものを、歌舞伎舞踊にしたものだそうです。
この場合の「船」というのは、琵琶湖を渡る船ですが、そこに登場する船頭さんと、船に乗る聟さんのやりとりが本当に面白くて、笑ってしまうほどでした。
近江八景も歌われたりして、滋賀ファンの私は楽しめました。
そして舞台には三味線と唄の人しかいないのに、まるで目の前で歌舞伎を見ているような錯覚を覚えるものでした。
この曲を作曲したのは、昭和40年、先生がまだ30歳の時のことだったそうです。
そして当時の松緑さんに非常に褒められて、高級な三味線をいただいたというエピソードもご披露されました。

この演奏会を聞いて、三味線音楽に対するイメージが変わりましたね。
政太郎先生の作品は、昨年の「第3回今藤政太郎 作品演奏会」▼でも聴いたことがあり、その時も圧倒されたのですが、今回も感動しました。

私のような素人が思うのはおかしいのですが、とにかく日本文化についての深い教養と、新しいものを試みる姿勢が強い方なのだろうと思いました。

政太郎先生はご高齢ですが、これからもお元気でご活躍していただけるよう、お祈り申し上げます。

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この日の装い。

格調高い演奏会には、普段着ることのない訪問着にしました。
茶屋辻という古典的な模様です。


色は薄い藤色。
「今藤」の演奏会にぴったり?

帯は川島織物。


もちろん、着物も帯も、どちらもリサイクルです。

それにきれいな色の、長い道行を合わせました。


これは、娘の婿さんのお母上のお手製です。
とても素敵なものなので、汚れるのが惜しくて、めったに登場しませんでした。



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