2020年7月13日月曜日

「紫式部日記解読」

源氏物語の著者・紫式部の人生を描いた小説「散華」▼や、現代の著者が紫式部に成り代わって書いたような「私が源氏物語を書いたわけ」▼などを読んでいるうちに、その土台となっている「紫式部日記」を読んでみたいと思うようになりました。

ところが私の古文読解能力では、原文をそのまま読むのは無理なので、まずは解説書を手にしてみました。


この本の特徴は、ご夫婦の合作であることです。

ご主人の田中宗孝さんは、法学部の教授をされていた方です。
奥様の田中睦子さんは、家政学部出身で、たぶん専業主婦をされていた方とお見受けしました。
お二人とも後期高齢者です。

奥様は、子育てが終わって、いろいろな源氏物語の講座で勉強をするようになりました。
ここまではよくある主婦の話ですが、すごいのは、講座では納得いかなかったことがあり、それをあちこちの先生のもとで追及して、ついにはご自分で解読書を書きあげてしまったことです。
それもこの1冊だけではなく、源氏物語関係の書物を4冊も書いたというのですから、並みの主婦ではありませんね。

さて「紫式部日記」ですが、現代の私たちが「日記」というと、自分の意志で毎日の出来事を綴っていくものと思われがちですが、この「紫式部日記」はどうもそういった類のものではないようです。
つまり紫式部が自分で自主的に書いたものではなく、彼女の上司である藤原道長が彼女に記録するように指示したもの、という説が多いようです。
それは彼の娘である中宮彰子の初めてのお産のとき、その出産前後の出来事を詳しく記録するのが紫式部の仕事だったのでした。
そしてその日記はその時の出来事だけで終わらず、後にも紫式部が見た宮廷での生活、女官たちの姿なども綴るようになったのです。

この本を読んで意外だと思ったのは、このご夫婦は「源氏物語の成り立ち」についても一家言あることでした。
初めほうの巻(桐壺から幻まで)は、紫式部一人の作品ではなく、彼女の父親である藤原為時がかなり関わっていたもの、という説を取っています。
そしてこちらがあまりに評判になってしまい、世間では「光源氏は最高の男性」のように扱われてしまったのが、紫式部にとっては不本意だったようです。
それでその後、本当に書きたかったという世界を、「宇治十帖」で描いたというのです。

たしかに宇治十帖は、それ以前とはあまりに異なり、ぼやっとした感じがして、私はあまり好きになれないのですが、紫式部はこの十帖を書くことにより、女性の生きる道を描きたかったようです。

いずれにせよ、この「解読」は日記の原文と現代語訳が並列して書かれているので、読みやすく工夫がされています。

また道長の立場も分かりやすく描かれています。
彼は孫を天皇にしたいがためにあれこれと画策をするのですが、紫式部もそのメンバーの一人として重要な役割を担わされていたのです。
この二人の間に男女の関係はあったと思いますが、中年の大人同士の付き合い、といった感じでしょうか。
もちろん道長は紫式部にとっては上司ではありますが、2人のやりとりがけっこう軽いタッチで描かれています。

面白いのは、この著者(とくに奥様の方)は、瀬戸内寂聴や大和和紀などが描く、いわゆる濡れ場シーンが大嫌いだということです。
紫式部自身は、「誰と誰が寝た」などという文言は一つも入れずに、それでも二人の関係が分かるように描いていたのに、現代の作家や漫画家はあまりにリアルにベッドシーンを描くので頭に来た、という感想を述べています。
でも、私は「あさきゆめみし」は好きですけどね。

今度は酒井順子さんの源氏物語エッセイを読んでいます。
実は以前にも読んだことがあるのですが、「日記」についての彼女の意見もユニークなので、もう一度読み返しているところです。

また日本各地で新型コロナの感染者が急激に増加しています。
人ごみは避けたいので、自主的に家にこもり、読書などをしています。

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「一日一句」

コロナ避け紫式部の道辿る



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