私は若い頃、推理小説ばかり読んでいた時期がありました。
松本清張、森村誠一、夏樹静子、宮部みゆきなどなど。
最近は時代小説を読むことが多いのですが、久しぶりに乃南アサさんの推理小説(といえるかどうか?)を手にしてみました。
「涙」上・下巻です。
山の手のお嬢さん育ちの萄子は、ふとしたことで知り合った警察官の勝と付き合いはじめ、順調に交際をすすめて、ようやく結婚式まで間近となりました。
ところがある事件を境にして、彼は失踪してしまう。
その彼を求めて、萄子の追跡が始まります。
熱海、郡山、田川、宮古島。
日本各地、彼の姿を追いかけます。
実は、勝の失踪は、彼の上司の娘が乱暴された上に殺された、という事件が絡んでいました。
萄子は勝を見つけて、元通り幸せになれるでしょうか。
こんなストーリーですが、物語よりも面白かったのは、その時代背景です。
事件が起きたのは、昭和39年、東京オリンピックが始まる前のことでした。
当時の風俗や、流行歌、事件がとてもよく描かれていて、あの頃に戻ったような気分に浸れました。
池田首相が病いのため、佐藤栄作が首相になりました。
新潟地震が起こり、新幹線が初めて走ったのも、ケネディが暗殺されたのもあの頃でした。
美空ひばりが小林旭と離婚したり、金田正一がジャイアンツに入団したのもあの頃だったそうです。
佐田啓二が亡くなったり、「アンコ椿は恋の花」が流行ったのも、この頃だったそうです。
翌年には北ベトナム爆撃が始まり、吉展ちゃん事件が解決し、「11PM」がスタートしたそうです。
そして沖縄に行くためには、パスポートが必要な時代でした。
そういう時代背景が、小説のあちこちに散りばめられています。
ちょうど私が中学3年から高校1年の時です。
懐かしさでいっぱいになって、どんどんと読み進みました。
また萄子が出かけた先も、熱海や宮古島など、最近、私も行ったところが多く、ほんとうに細部までよく描けていると思いました。
小説の後半になると、警察官の娘が殺された理由や、勝が逃亡を続けていた理由が中心になりますが、そのあたりはちょっと推理小説としては弱いかな、とも思いました。
しかし、宮古島での猛烈な台風の中での二人の再会は、今年の台風のひどさを思い出されるほどの場面で、迫力がありました。
婚約者の無実を信じたヒロインは、今は幸せな主婦となりました。
この小説、映画化されたら、とても面白そうだと思いました。
乃南さんの一番の小説と言えば、やはり「凍える牙」ですが、この「涙」もとても面白い作品だと思います。
ただし、タイトルがイマイチですね。
わざとダサいタイトルにしたのかしら、とも勘ぐってしまいました。
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