最近は、この小説を読んでいました。
杉本苑子さんの「華の碑文」です。
このところ読んだ本の中で、一番読みでがあり、濃厚な内容でした。
おまけに文字の小さいことと言ったら本当に小さくて、ページが活字でぎっしりと詰まっているので、目で追うだけで大変なものでした。
このくらい、文字の大きさが違います。左は普通の文庫本です。
本の内容を簡単にまとめれば、能を大成させた世阿弥の一生の物語です。彼の弟の立場で語られています。
世阿弥は室町時代に生まれ、三代将軍義満の稚児として愛され、その後、猿楽を能に昇華させた父の観阿弥を引き継ぎ、それ以上の芸術に完成させた人です。世阿弥には三人の息子がいましたが、それぞれ優れた才能を持ちながら、仏門に入ったりして、父の能は継ぎませんでした。後継者となったのは、弟の息子、つまり世阿弥の甥でした。
その後、世阿弥は佐渡に島流しとなり、10年の年月を経て帰郷して、80歳で亡くなりました。
容姿と才能に恵まれた世阿弥でしたが、命をかけた能への思い、周囲の愛欲ドロドロの中、孤高で凄絶な人生の物語でした。
この小説についての感想をまとめるのは非常に難しく、一言で言えません。
時の将軍や大名、僧侶までが稚児遊びに明け暮れるなどあまりに強烈な場面もあり、また能を理解しないと、簡単に表現できないのです。
なにしろ作者の杉本さんが長年にわたって能を研究、調査された結果の一大作品なのですから。
それより、私は、やはりこの時代背景を知らないと、本の紹介は難しいと思いました。
特に物語の後半以降は、時の権力者である足利将軍家の移り変わりに関連した話も多く、また南北朝を理解していないと、頭が混乱してしまうことも度々ありました。
室町時代のイメージはなかなか掴めませんね。
初期の足利尊氏の頃、
義満の華やかな北山文化が栄えた頃、
義政の東山文化の栄えた頃、
応仁の乱、
戦国時代、
織田信長による室町幕府滅亡、、、。
と室町時代の簡単な流れはこんなものでしょうけれど、室町幕府そのものは1336年から1573年までのおよそ230年間という長い期間があったのです。その割にはエピソードが一定しない時代のような気がします。
将軍についても、足利尊氏、義満、義政、義昭くらいは分かりますが、それ以外にもみんな義の付く名前で、なかなか紛らわしいのです。
それでこの際、大昔に日本史の授業で習った以降、室町時代についてはなんの知識も増えていないので、ちょっと復習してみることにしました。
まずは室町幕府の歴代将軍の名前を上げてみます。
初代から尊氏、二代目は義詮、三代目は義満、これ以降は義持、義量、義教、義勝、義政、義尚、義材、義澄、義晴、義輝、義栄そして最後の15代は義昭です。
おまけに彼らは親子という直系のつながりだけでなく、兄弟だったり、一度仏門に入ったのに、また俗世間へ戻ってきたりと、ほんとにややこしい。
それら将軍が代わることに、能の流派の支持も変わるのですから、時代背景がわからないと、能の立場もどうなるか見当がつかないのです。
それくらい権力者と、能で生活している人たちの繋がりは密接でした。特に能の一家は大家族で集団で生活していることが多く、権力者の一言が彼らの生活に影響を与えていたのです。
また足利時代の文化が、現在の私達の生活に、深く影響していることはたくさんありますね。
書院造りの家に住み、美しい庭を愛でたり、能を親しむ。
足利時代の影響は脈々と続いているわけですね。
著者が小説の中で、世阿弥に「能が500年後、千年後も続くために」と言わせている場面がありますが、紆余曲折の中で、続いてきているのはえらいものだと思います。
ちなみに以前、瀬戸内寂聴さんが世阿弥について書いた「秘花」にも圧倒されましたが、今回の杉本さんの「華の碑文」はそれ以上、濃厚で衝撃的でした。
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「一日一句」
平凡な 毎日でよい 虫の声
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