林真理子さんの「STORY OF UJI」を読みました。「小説源氏物語」というサブタイトルがついていました。
これは源氏物語のうち、いわゆる「宇治十帖」と言われる後半の部分を下敷きにした物語です。
私が初めて「宇治十帖」を読んだのは、大学1年の時でした。教職課程を取るためには、日本文学も選択しなくてはならず、それで「宇治十帖」の講義を選んだのでした。
この授業は高齢の女性教授によるものでしたが、とにかく難しくて、高校の受験古典しか知らなかった私には、ちんぷんかんぷんでした。
授業はまるで面白くありませんでしたが、それでも仕方なく1年間は受講しましたが、なんてつまらない物語なんだろうと思っただけでした。
「宇治十帖」は、都の外れの宇治に住む三姉妹の物語ですが、大君、中の君、そして浮舟という女性はみんなうじうじしていて、ほんとに「うじ物語」だわ、と思ったものです。
その後、大人になって源氏物語を読むようになってからも宇治十帖は好きになれず、宇治の源氏物語ミュージアムに行ってもあまり興味をひかれることはありませんでした。
そういう記憶があったので、林さんの本もあまり期待しないで読み始めました。
ところが、これがものすごく面白かったのです。
というのも、今まで何冊か、宇治十帖の現代語訳を読みましたが、それとはまったく異なり、林さんの物語になっていました。
なんといっても、3人姉妹のことよりも、匂宮(光源氏の孫)と薫(光源氏の息子)の二人を主人公にしたことが、面白さの原因だと思います。
帝の息子である匂宮と、大臣の息子である薫、人工的な匂いに包まれている男と、身体から発する自然の香りに包まれている男。この二人の男の組合せと、そして対立が中心になっているので、ストーリーが良く分かりました。
彼らは小さいころから仲良しでしたが、ライバル心を燃やしていました。
匂宮は帝の息子なのに、奥さんは左大臣の娘、逆に薫は源氏の息子ということになっていますが、出生の秘密を悩んでいて、そして奥さんは帝の娘。
匂宮は遊び好きなのに、宮廷にいるため自由に出歩くことができず、また母親の明石の中宮にいつも見張られています。それに引き換え、薫は自由に外出することもでき、宇治にもスイスイと出かけますが、いつも気を廻し過ぎてまどろっこしい。立場はまるで反対です。自由奔放な男と、慎重な男。
この二人が一人の女性に目がくらんでしまいます。
男たちはやりたいことをはやり、好きな女性の争奪戦をして、そして結局、二人とも振られてしまいます。
彼らの性的指向の違いが、浮舟を迷わせたのでしょう。
また高貴な人と言われていても、彼らは受領階級やもっと下の階級の人たちのことはまるで理解できない人種なのでした。そのあたりのいやらしさも、良く描かれています。
林さんの物語を読んで、これは女たちの話ではなく、男の話なのだと思いました。考えてみれば、「源氏物語」も男の話なので、「宇治十帖」だって男の話と考えれば問題はないはずです。それを私は勝手に3姉妹の話と思い込んだために、何がなんだか分からなくなってしまっていたのでした。でも林さんの小説のおかげで、原点に戻ったというか、とても分かりやすく、今までの謎も解けました。
紫式部の書きたかったことと、林さんの解釈は違うかもしれませんが、面白い小説でした。
ただ一つピンとこなかったのは、本の表紙です。これはどうなのかな。
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「一日一句」
秋の夜の楽しみ増した宇治十帖
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