作者の杉本苑子さんのあとがきによると、元々は「婦人公論」に掲載されていたもので、初回は昭和61年3月号だったそうです。
そして終わりは平成2年1月号。
その間、47回の連載で、原稿用紙約1400枚という長編です。
その「散華」を2回読み直しました。
とても時間がかかりましたが、下巻は本当に面白くて、ぐいぐいと引きこまれていきました。
学者の父親の家で、地味な暮らしをしていた小市(後の紫式部)でしたが、宮中に上がって中宮彰子の女房としていくあたりからは、どんどん先を知りたくて、読むスピードがアップしました。
この小説には清少納言の鼻持ちならない行動や、和泉式部の恋愛沙汰も分かりやすく描かれていて、そういう時代に、夫に死別された紫式部が「源氏物語」を書いた時の状況が丁寧に描かれています。
そして読んだ後は、それまでイメージの薄かった紫式部が、まさに目の前にいるかのような存在となってきました。
賢明で美しい一条天皇の愛妻・定子の様子も素敵でした。
幼くして入内した彰子が紫式部の教えにより、どんどん成長して、父親の道長を打ちのめすほどになった場面などを読むと、中宮たちを応援したい気持ちになりました。
ただの天皇の添え物ではない、生身の女性を感じました。
また藤原一族の政争や、当時の疾病や多発する火事などの悲惨な社会状況、そして庶民の暮らしもよく分かり、こういうことを日本史や古典の授業で教えてくれたら、どんなに興味が沸いただろうと思いました。
また作者の杉本苑子さんが、紫式部に代わって「作家が物語を書くときの心得」のような内容を書いていたことにも、さすがだな、と思いました。
特に女房達の間で有名になってしまった「源氏物語」は、前半(光源氏の死まで)よりも、「宇治十帖」と言われる後半にこそ、彼女の本心が書かれていた、ということです。
私自身はどうも「宇治十帖」はウジウジしていて、あまり好きになれないのですが、本当はこちらを書きたかったのだ、ということを伝えるがために、この長い「散華」の上下巻を書いたのではなかろうか、とも思いました。
ネット上では、この「散華」を7回も読んだという人も見つけました。
私はたった2回読んだだけでしたが、それでも圧巻の小説でした。
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「一日一句」
蝉時雨小市と歩むものがたり
(小市は紫式部の幼名)
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